★『百万年の船』ポール・アンダースン著 岡部宏之訳、ハヤカワ文庫SF、11/30-94/1/31 [1][2][3]巻各520円560円640円 表紙は加藤直之さんで、[1][2][3]巻を横に並 べると一枚の絵になるという趣向になってます。 設定: 紀元前のフェニキアで生まれたハンノは不老 長寿の人間だった。彼をはじめとする仲間達十 人は三十代に達するとそれからはもう老いるこ とがない。しかし代謝機能が常人と違い治癒能 力が優れているが、致命傷を負うと死ぬことも あるのだ。不老不死を普通人に知られると、魔 法使いに思われたり、悪魔と取引したと忌み嫌 われるため、彼らはその正体を隠して生きてい かねばならないのだ。そして彼は、わずかな確 率で世界各地で生まれているに違いない仲間を 探し始める。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆ 不老不死テーマの決定版とも言うべき大作。 十九部に分かれる各エピソードは連作短篇のよ うな感じで、あくまで地味に展開します。 ラスト近くで、不死を手に入れた地球の半無 気力状態には考えさせられるものがありますが、 たいてい一般人が不死を手に入れるとそういう 具合になってしまうようです(苦笑)「百万年 の船」でもそうですが、もとからの不死人はラ ザルス・ロング氏を始めとして実にエネルギッ シュですがねえ(笑) 1,2巻のあたりはあまりの進行の遅さにち といらいらしたのですが、不死人の話なんだか ら致し方ないか(苦笑)それに3巻の結末を読 むと、老いてますます元気なアンダースン氏の 感がありますね。 ★『フリーゾーン大混戦』 チャールズ・プラット著 ハヤカワ文庫SF、94/1/31、680円 粗筋: ロサンジェルスの中に独立したフリーゾーン。 そこではドラッグは使い放題、税金は無 人に迷惑をかけなければ何をやっても構わない。 最大の敵は悪徳市長を代表とするアメリカ政 府だったのだが、お調子者のハッカーがタキオ ン発生機を発明してしまったために時空が大混 乱。次から次へと奇天烈な事件が勃発しまくり ます。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆ ロサンゼルスにある無法地帯フリーゾーンで のドタバタを描いたスラップスティックSFな んだけども、最初の謝辞にある盗んだアイデア を自由に使用しているとあります。 ウェルズはタイムマシン。ハインラインは、 「大当たりの年」。ここらあたりは見当がつく のだけどコーンブルース、ベスター、ディック、 バラードのオリジナルアイデアって何なのでし ょうか? で読後感は、やはりあちらのスラップスティ ックはちと日本とは違うなって思いました。 ★『メタリック』別唐晶司著 新潮社、94/2/10、1400円 「メタリックーーそれは醜悪な肉体を憎悪し、 きらめくメタルボディを愛する者のキーワード。 肉体から摘出された脳は、意識の暴走の果てに 何を見たのか?驚愕のエンディングに向けてス トーリーは一気に加速する。最先端医学と現代 文学の交差点に浮上する禁断のヴィジョン!新 潮新人賞作家による、衝撃の長編小説」(宣伝 コピーから) 粗筋: 「かれ」は多くの業病に悩まされ、右目は失 明同然、虫垂炎と腹膜炎を併発し一時は人工肛 門を作ったことがある上、現在は腎臓癌に犯さ れている。「わたし」の方も、若年性糖尿病の ために父親の腎臓を移植してある。同じ医学部 通う二人は親友同士だった。 余命三ヶ月と宣告された「かれ」は、「わた し」や研究主任を巻き込んで、世間と肉親も欺 き、かねてから持論=肉体破棄論を実行に移し、 自分の脳をメタリックな人工頭蓋へ移植する。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ まさに刺激的な作品ヽ(^o^)丿 外部から遮断された脳ってとこが作者の見識 ですね。脳だけ人間のサイボーグの設定にして しまうと「歌う船」や「スター・ウィルス」に なってしまいますから。外部からの刺激をいっ さい遮断された脳は、果たしてどんな悪夢を見 るのでしょうか! ★『イルカの島』アーサー・C・クラーク著 創元SF文庫、94/2/18、400円 1963年に書かれたクラーク氏の正統派海洋ジ ュヴナイルSFです(以前に角川文庫から刊行 されたものの新訳) 粗筋: 密航したホヴァーシップが事故で沈み、たっ た一人大海原に取り残された家出少年ジョニー。 彼を救ったのは、<イルカ島>と呼ばれる孤島 で研究対象になっていたイルカの一群だった。 その島の所長である博士は、イルカ語の研究を し、コンピュータの助けを借りてイルカと意志 疎通ができるようになっていたのだ。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 心優しき総てのSFファンに大推薦! ★『レストレス・ドリーム』笙野頼子著 94/2/25、河出書房新社、1800円 粗筋: 夢の中で悪夢に似たRPGを繰り広げている ゲームファイター桃木跳蛇。彼女はワープロを 打ちながらゲームをしているのか、ゲームの中 でワープロを打っているのか判然としない世界 に住んでいる。その舞台は東西40kmのスプラッ タシティ。この夢の街には、殺人用サイボーグ カラスを始め無数のゾンビが存在し、夢見人達 をいたぶり、あわよくば殺害して夢の住民すな わちゾンビとして再生させようとしている。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 相変わらず悪意に満ちた:-) 日本文明批評を 展開する笙野女史。彼女にとって現代日本その ものが魔界都市なのかも知れませんね。 ということで、辛口ファンタジーがお好きな 方にはお薦めの一冊。 人形に託して現代日本の世紀末を語った『硝 子生命論』以来の笙野ファンの私です。 ★『冬長のまつり』エリザベス・ハント著 浅羽莢子訳、94/2/28、ハヤカワ文庫SF、780円 粗筋: 舞台は24世紀のアメリカ。生物兵器によ って文明がいったん壊滅し、廃虚と化した都市 に生き残った人々が暮らす世界。もはや倫理規 定もへったくれもないこの悪夢のような世界の 人間工学研究所で生み出された超能力者ウェン ディ。彼女は電極を介して他人の精神を疑似体 験でき、その血を味わうことによっても精神状 態が分かるのだ。 物語は、"薔薇の雨"と呼ばれるウイルス兵器 攻撃と遺伝子改造によって生み出されたモンス ター達が跳梁跋扈する未来の変わり果てたワシ ントンDCを舞台に、ウェンディと幼い時に離れ ばなれになった兄のラファエルが再び巡り会う までの冒険を描いています。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆ ギブスン以後の最高のテクノゴシックとの 評価が高い(ほんまかいな ^^;)本書は、サイ エンス・ファンタジーの傑作です。 しかし正直なところ、なぜこういう設定にし たかは評価の分かれるところでしょうね。この テーマなら普通のファンタジーとして書いた方 が無理がないような気がしますから。 というわけで、《新しい太陽の書シリーズ》 ファンにはお薦めの一冊です。 ハンド女史は、最近では『12モンキーズ』 のノヴェライズも書かれてますね。ウィルスが らみのお話が好きなのかしら :-) ★『キャプテン・ジャック・ゾディアック』 マイクル・カンデル著 大森望訳、94/2/28、ハヤカワ文庫SF、620円 粗筋: 街にロシアの核弾頭が落ちた朝、男やもめの クリフォードは、恋人のマーシャの家を訪問す ることにした。しかし彼女の死んだ祖母が結婚 に大反対。しかも彼の子供達は、一人はゾデア ックの売るドラッグで宇宙の彼方で傭兵稼業、 もう一人は存在が希薄になり幽霊同然に。核戦 争も深刻化する地球温暖化もなんのその、クリ フォードは、新しい家庭を築くために奮闘する のであった(苦笑) 独断と偏見のお薦め度:☆☆1/2 例の意地の悪いメタ・ファンタジー「図書室 のドラゴン」の作者のSFです。あちらの方は、 結構気に入りまして期待していたのですが・・ 「パパの原発」でも感じたのですが、どうも あちらのブラック・ユーモアものには違和感が あって(苦笑)筒井さんあたりのブラックな笑 いだと、すご〜く良く分かるんですが・・・ ということで、「パパの原発」ファンにはお 薦めの一冊です。 ★『小娘オーバードライブ』笹本祐一著 96/3/1、角川スニーカー文庫、500円 粗筋: 何をしようかと考えていた夏休み。そんな折 り『正義の味方募集 時給500円』という張 り紙を見て何気なく応募してしまった高校二年 生の坂井美帆ちゃん。着るだけですむバニーガ ール型強化服を着用して、今日も正義の味方の ご出陣(笑) 独断と偏見のお薦め度:☆☆1/2 『妖精作戦』など笹本祐一ファンにはお薦め ★『占星師アフサンの遠見鏡』 ロバート・J・ソウヤー著 内田昌之訳、94/3/20、ハヤカワ文庫SF、620円 『ゴールデン・フリース』で多くのSFファ ンを唸らせた、ソウヤーの第2長編です。 粗筋: 知性ある恐竜、キンタグリオ族は世襲制の皇 帝のもとで中世ヨーロッパ風の社会を築いてい た。見習い占星師のアフサンは、宮廷占星師の 弟子として勉学に励んでいたが、森羅万象を非 科学的に解釈する師の教えに不満を抱いていた。 そんな彼は、大切な通過儀礼のひとつである 巡礼の旅へと出発する。そして、その旅のなか でアフサンは、驚くべきしかも恐るべき真実を 発見するのだった・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 一見、ファンタジーかと思えるような設定で すが、けっこうストレートな科学者SFですね。 次第に明らかにされるキンタグリオ族の世界 と主人公アフサンが悩みながら成長していく姿 が上手く書かれています。どちらかというとS Fというより、科学読物って感じもします。 ★『昭和歌謡大全集』村上龍著 94/3/23、集英社、1300円 粗筋: なんとなく集まったコンピュータおたくの若 者七人のうちの一人が、ふとした弾みで一人の おばさんを殺してしまう。そのおばさんは、ミ ドリと言う名前が共通項のカラオケ好きなメン バーで結成された<ミドリ会>の一員だった。 仲間を殺された<ミドリ会>のおばさんは、 仲間の仇を討とうと立ち上がる。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆ やはりSFファンには『五分後の世界』の方 が取っつきやすいでしょうね。でも、オタクの 若者とおばさん集団の復讐戦が次第にエスカレ ートする様はSFに通ずるものがありますね。 ★『川の書』イアン・ワトスン著 細美遥子訳、94/3/24、創元SF文庫、600円 《黒き流れ》三部作第一部 設定: 何処とも知れぬ<川>に分断された世界。川 の中心には<黒き流れ>と呼ばれる不可思議な 存在が横たわり、有史以前から誰もこの<川> を横切ったものはいない。それ故<川>の西と 東では全く違った文化が生まれ交流することは なかった。また<川>には毒魚がいるため泳ぐ こともままならず、<黒き流れ>が<川>を航 行する男たちを狂わせてしまうために、男達は 一生に一度しか<川>を航行する事しかできな い。よって<川>を利用した通商は女達の手に ゆだねられているのだ。 導入: 東側の世界で生まれた17歳の少女ヤリーン は<川の女>になるために川ギルドに入会を申 し込む。<黒き流れ>の一部を飲むことによっ て、川の女になるのだ。同じ頃観測者ギルドに 入所した弟の望遠鏡を覗いた彼女は、対岸の西 の世界の岸辺で女が火刑に処されているのを見 つけた・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 希有壮大なサイエンス・ファンタジーの傑作。 その世界はファーマー氏の《リバーワールド》 に匹敵するかも、ヤリーンの成長譚を通して、 この不可思議な世界が徐々に明らかにされてい く様が一番の見所ですね。 『五分後の世界』村上龍著 94/3/27、幻冬社、1500円 粗筋: 人生の裏街道を渡り歩いてきた小田切は、突 然ある日別世界に紛れ込んでしまう。その世界 では日本は無条件降伏しておらず、国土は列強 に占領され分割統治されていた。しかし無数の 準国民と呼ばれる混血児達に支えられた26万人 の純血日本人達は、国民ゲリラと呼ばれて世界 中から恐れられかつ尊敬されていた。しかもそ の技術水準は世界のトップレベルで、ドラッグ やハイテク兵器の輸出で世界市場に少なからぬ 影響を与えていた。訳が分からないうちに彼ら の戦闘に巻き込まれた小田切は、スパイとの疑 いを受けながらもこの世界に順応していこうと するのだった。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ SFの形を借りて日本のキューバ化を描いた この作品は、極めて優れた実験小説で、圧倒的 な迫力で、読者を空想世界に誘います。 まあお話の整合性を大事に思うSFファンと しては、後半の世界的な音楽家ワカマツのコン サートが意味不明な点とか、主人公がこの世界 にどういう理由で関わるようになったかが最後 まで不明な点がとち納得がいかなかも知れませ んが・・・ ★『ウィザード』ジョン・ヴァーリイ著 小野田和子訳、94/4/8、創元SF文庫 上下各580円 全三部で構成されるシリーズの第二作目。 前作『ティーターン』の粗筋: NASAの深宇宙探査船《リングマスター》 の発見した直径1300kmの土星の新衛星は、実は 世代型恒星間宇宙船であった。接近した船は捕 獲され乗組員はその衛星テミス(またの名をガ イア)の内部に転生をとげる。 そこは豊かな自然にあふれケンタロウスに似 た知的生物や、羽のある"天使"生きている飛行 船その他もろもろの不思議な生物の住む世界だ った。 《リングマスター》の女性船長であったシロ ッコは、かつての乗組員達とともにこの世界の 創造者である<ガイア>を探してこの車輪状の 世界を旅し、ついには苦難を乗り越え、車輪の スポークにあたる部分を登りきりハブの部分に 到達する。 『ウイザード』の導入: 精神的な病を抱える異なった世界の若い男女 二人がガイアへの旅を許可される。ガイアに頼 めばどんな不治の病でも治してくれるというの だ。やってきた二人にガイアは、ヒーローにな って戻ってくれば願いを叶えてやると宣言する。 二人は前作で登場したシロッコとギャビーと、 人間に友好的なケンタロウス型種族のティータ ーニスと共に旅立つ。 このRPGを思わせる設定の中でヴァーリイ は生き生きとお話をつむぎだして見せてくれま す。例によって主人公はいわゆる社会の弱者で あり、これは彼らの成長の物語でもあるわけで すが、同時に<ウイザード>であるシロッコの 挑戦の物語でもあります。 作中にもあるとおり”自然や神のなす御技な ら我慢できようが、人間の決めた不当なルール は我慢できない”人間達が、テミスにおいては 全能と言えるが齢300万年に達して多少ガタの来 ているガイアを知力と策略で出し抜こうとする わけです。(言ってみれば、ゲームマスターの 裏をかこうとするようなものかな) 独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆1/2 まあヴァーリイは大好きな作家ですので多少 点が甘くなっているかも知れませんが、傑作で あるのは間違いありません。 SF冒険物のファン、特にニーヴン&バーン ズの『ドリーム・パーク』ファンには絶対のお 薦めです! ★『東亰異聞』小野不由美著 94/4/20、新潮社、1500円 粗筋: 明治29年帝都"東京"には、人魂売りやら生 首使いなどが跳梁跋扈していた。新聞記者平河 新太郎は、近頃巷を騒がせている闇御前、火炎 魔人と呼ばれる人殺しを記事にしようと万造と ともに取材を始める。そして侯爵鷹司家の母親 が異なる常と直の兄弟が襲われたことから、鷹 司家のお家騒動が関わっているとの推理をする が・・・ 相続権を除く総てが備わった次男"常"と、相 続権だけはあるが他には何も無い"不良華族"の "直"の兄弟に隠された秘密とは! 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 小野不由美さん渾身の伝記ミステリ。 文楽の設定で語られる異世界のからくり仕掛 けの妙に酔わされます(^^)v ★『夢巫女・美緒』水城雄著 94/4/22、ログアウト冒険文庫、560円 粗筋: 人造人間制御に使うプログラムの開発に、自 らが開発したイメージ・シュミレーション・マ シンを応用することを考えた萩原教授。それは 電脳空間で人造人間の動作や思考処理をイメー ジすることによって、コンピュータがプログラ ムを自動生成するというものだった。しかしそ の実験の最中に教授は昏睡状態に陥ってしまう。 そこで、イメージ・オペレーションに向いて いる思春期の美緒たち学生がイメージ・オペレ ータとなってコンピュータに接続された昏睡状 態の教授の意識下潜り、覚醒の手助けをさせる のだ。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 まあ平たく言えば、覚醒しない他人の意識の 中に入っていって治療するお話です。アラン・ E・ナースの短編あたりが原型のこの手のお話 も、時代の進歩と共に変わってきたものですね。 もちろん主人公は、可愛い高校生の女の子( 読者層から考えて、当然か) しかし、意識不明の教授の意識の世界に入っ た時にトマトが襲ってきたのには、大受けでし た。(この本を読んだ人で「ATTACK OF THE KI LLER TOMATOES」を観たことのある人は何%いる のやら) ラストあたりで、ちとSFからはみ出してし まうのもご愛敬^^; ★『混成種−HYBRID』カシュウ・タツミ著 94/4/25、角川ホラー文庫、520円 角川ホラー小説大賞佳作作品。 粗筋: 天才肌だが学会から異端視されている黒田博 士は、自分の発明である金属植物を世の中に認 めさせるためにある実験を思いつく。金属植物 の種子を体内に埋め込むことによって、金属植 物チップを代用神経とし、肉体の反応速度を上 げるのだ。しかし徐々に身体の神経組織が金属 植物と置き換わって行くにつれ思いもよらない 結果が・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆1/2 アイデアは一見の価値あり。ストーリー展開 はまだまだかもしれませんが。 ★『器官切除』マイケル・ブラムライン著 山形浩生訳、94/4/20、白水社、2300円 もし筒井康隆氏が外科医出身だっら書いたか も知れないような毒と哄笑に満ちた作品集(笑) 邦題に使われた「器官切除と変異体再生−症 例報告」は、レーガン氏の全身をゲバラやビコ 医師が解体し、それを大量に組織増殖させ第三 世界に資源として供給するというもの。しかも 組織を切り分ける際に、後の組織増殖が順調に 行くよう無麻酔で処置をするという徹底ぶり。 他の収録作として、「ラットの脳」「ドミノ ・マスター」「溺れてしまえ」「CWとのイン タビュー」「男の恩寵を捨てて」「家事」「華 麗なる魅惑」「暖かさの約束」「ウェットスー ツ」「そのもの」「ベストセラー」 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆ 好き嫌いはかなりあると思います。でもここ まで徹底すると爽快ですね(笑)著者は現役の 外科医なのですが、人間(精神もかな?)をた だの物体(現象)として扱うクールな筆さばき は見事ととしか言いようがありません。短編集 全体としてのレベルも極めて高いです。凡百の SFを読み飽きたSFマニアの方は必読。筒井 康隆氏、J・G・バラード氏のファンにも特に お薦めです。 ★『マンハッタン強奪』 ジョン・E・スティス著、小隅黎訳、94/4/30 ハヤカワ文庫SF、上/下巻各560円 粗筋: 直径100kmの異星の巨大宇宙船にマンハッタ ン島ごと拉致されたニューヨークシティ。その 巨大宇宙船の内部には、同じように透明なドー ムで覆われた異星人の住む都市が点在していた。 この宇宙船は巨大な動物園なのか、はたまた 異星人の実験室なのか。他の拉致された異星の 都市とコンタクトを取り真相を探るべく遠征隊 が組織された。 独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆ 前作の『レッドシフト・ランデヴー』に比べ るとお話しつくりはぐんと上手くなっていて、 誰が読んでも楽しめる作品に仕上がっています。 しかしその分『レッド・・』にあった破天荒さ が影をひそめているのは残念です(ひょっとし て相いれない条件なのであろうか) しかし、百戦錬磨の軍人はいかなる異常事態 にも落ちついて対処できるという設定は、いか がなものでしょうか。ちと古くさいかもしれな い。後半のニューヨークシティを拉致した異星 人が出てきてからの展開も、もう一ひねり欲し いところ。(というのも、これだけ書けるのな ら、どうしてももっと高いレベルを望んでしま います) ニューヨーク市が宇宙へというとまず思い出 すのはブリッシュの『地球人よ、故郷に還れ』 ですね。また拉致された一都市はカードの『反 逆の星』に出てきた森林都市によく似てますね。 それにニューヨークを閉じこめている透明物 質を研究するために穴を開るところなどはクラ ークの『宇宙のランデヴー』やベアの『永劫』 を思わせますし、後半の真相が明らかになる下 りは、セーバーヘーゲンの《バーサーカー・シ リーズ》かベアの『天空の劫火』の雰囲気もあ ります。 著者も相当のSFファンとみました。 ★『二百回忌』笙野頼子著 94/5/25、新潮社、1350円 三島由起夫賞受賞作 「大地の黴」 座敷ぼっこにも共通するような、土地と人間 が混ざり合ったような大地の黴としか言い様の ない存在を通して語られる異様な風景。 「二百回忌」 法事の間だけ時間が200年分混じり合って しまい、死者と生者の区別が無くなり、死者は 生者の時に周囲の者から強く記憶された姿で現 れる。日本的冠婚葬祭の不可思議な不条理さを 嘲笑した作品ですね。 「アケボノ帯」 教室内での排泄行為というタブーを犯したた め口と肛門の循環機関と化してしまった少女。 「ふるえるふるさと」 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 普段何気なく見過ごしている日本の共同体習 慣が、笙野女史の手に掛かると、なんとグロテ スクにアホらしく写ることか・・・ ★『もう猫のためになんか泣かない』柾悟郎著 94/5/31、早川書房、1800円 「いちばん上のお兄さん」 ホロコースト後の世界を描いた、ちょっと恐 い話。けだし女性は強し :-) 「緑の中の青い水」 「冷たく白く痛い」 雪女に託して語られるイタ・セクスアリス 「時間のへそ」 座敷ぼっこの真の能力とは?スラップスティ ックものかな。 「もう猫のためになんか泣かない」 ティプトリーを彷彿とさせる理知的な作品。 柾氏の「大きいけれど遊び好き」 「あてのない手紙」 「命のように長い嘘」 「チューブラー・サマー」 「夜が交わるとき」 究極のマイナーレーベルを通して語られるジ ャック・フィニイ的叙情篇。 「霧の未明に」 「WHITE LOVE,TO MY ELDEST BROTHER」 「いちばん上のお兄さん」の英語バージョン。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 『ヴィーナス・シティ』で星雲賞を受賞した 柾悟郎氏の、SF青春小説です。 ★『ジェノサイダー 滅びの戦士達』 梶尾真治著、94/5/31、ソノラマ文庫、540円 粗筋: 火星探査船エターナルが行方不明になり、乗 組員も絶望と思われていた。主人公の佐伯願の 兄もその一員だ。しかしある日、願がねぐらと している地下室に電話がかかってくる。それは なんと兄からのものだった。兄と交差点で待ち 合わせをした願は、兄家族が住んでいた家を訪 ねるが、そこで願を待っていたのは、惨殺され た家族の死体だった。 約束の時間、交差点で再会した兄の姿は異形 のものに変わり果てていた。そうして、自分の 心も制御仕切れなくなったと願に伝え、さらに 怪物と化した他の乗組員達と闘えと懇願する。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 星雲賞を受賞した『サラマンダー』に比べる とちょっと軽いかな。最後の展開はあっけなさ すぎる気がしますが(苦笑) 梶真ファンには特にお薦めです。 ★『戦士の誇り』トニー・ダニエル著 公手成幸訳、94/5/31、ハヤカワ文庫SF 上下巻各520円 粗筋: 超空間を通って星々に旅する航法を発明した 西洋文明が、人類の居住可能な惑星にたどり着 いた時、そこにはすでにインディアン達が暮ら していた。彼等は大昔に超能力でカヌーを漕い でやってきたのである。数百年後この星を訪れ た新聞記者ウィルは、平和共存しているはずの 入植者とインディアンの間に深刻な対立が持ち 上がっていることを知る。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆ ま、こういう設定なら普通はユーモアSFに しまいがちですよね。しかし作者は果敢にも本 格サイバー・ハイテクSFとして書き上げてい るのです。魔法のようなカヌー航法とナノテク ノロジーが入り交じった世界を興味深く書き込 んでいますが、やはりちと読みにくい感はあり ます。ハイテクマシンとかナノテクをガジェッ トにしたサイエンス・ファンタジーというのは、 珍しくて興味深かったです。 基本的にはインディアンと悪い白人の戦いの お話しだと思いますが・・・ ★『地球の記憶』 オースン・スコット・カード著 友枝康子訳、94/5/31、ハヤカワ文庫SF、700円 <帰郷を待つ星>シリーズ第一作 粗筋: 惑星ハーモニーに住むニャーファイは、14歳 で身長は2mにも達しようとしていたが、まだ心 は少年のままだ。彼の住む都市では、男は誰一 として実際の市民ではなく、女性との配偶関係 は一年契約で見直されていた(泊めてくれる女 性のいない独身男性は都市の外の宿泊場所に泊 まるのだ)ある日、父親がヴィジョンを見たこ とから、彼の運命が大きく変わっていく。 一方ハーモニーに軌道上のマスター・コンピ ュータは、"オーバーソウル"として、住民を管 理している。そしてそれは住民の思考内容にま で及んでいた。 しかし昨今その機能が低下し、世界を制御し きれなくなってきていた。このままでは人類が 破滅してしまうのは必定。守護者としての使命 をはたすべく、オーバーソウルは一人の少年に 命運を託したメッセージを送る・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆ 解説にも書かれている通り、本書はモルモン 教の聖典の翻案ということですが、カード氏の お話作りは面白く読者を飽きさせません。とく に、女性が支配する都市の不可思議な習慣や成 り立ちなど、SFファンとしても興味が尽きま せんね。 ★『ショイヨルという名の星』 コードウェイナー・スミス著 伊藤典男訳、94/6/30、ハヤカワ文庫SF、600円 収録作: 「クラウン・タウンの死婦人」 「老いた大地の底で」 「帰らぬク・メルのバラッド」 「ショイヨルという名の星」 設定: <人類の再発見時代>人類の幸福のためすべ てを管理しつくそうとした機構が、人間の自由 である権利(危険や疾病に曝される権利)を甦 らせた時代。 SFの未来史ものの中で、ひときわ異彩を放 って輝くスミスの作品群。 <人類補完機構>と呼ばれる支配集団を核と した未来史の連作は、お互いに共鳴しつつ、他 の追従を許さない独特の神話的雰囲気と、特異 なリアリティときらびやかな世界イメージ、人 間や世界に対する確かな洞察を持って我々に迫 ってきます。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆!!! この本を読まずしてSFを語るなかれなんち ゃって(笑)ともかくSFファン必読の短編集。 どれくらい必読かというと、それはティプトリ ー女史の短編集と同じくらい必読(爆笑) 昔はファンダムでも、コードウェイナー・ス ミスの名前を出せばそれなりに尊敬を集められ た時代がありました。今はその魔力も薄れたか も知れませんがまだ未読の人は、本屋にあった らぜひ読みましょう。一冊で普通のSF2,3 冊を読んだのと同じ経験値が得られる価値有る アイテムですね。(笑) もしあなたがうら若き女性で、想いを寄せる 男性が海外SFファンなら(ほとんどSF的設 定)彼の耳元で、コードウェイナー・スミスと ティプトリーの名前を唱えれば、もうそれで彼 はあなたの虜。まだスミス氏の名前にはそれく らいの魔力は残っています(と思う) ★『ギャラクシー・トリッパー 美葉2』 山本弘著、94/7/1、角川スニーカー文庫、520円 副題:空のかなたのユートピア 前作の粗筋: ある晴れた日の朝中学校の校舎の屋上で、1 4才の美少女美葉ちゃんに話しかけてくるもの がいた。なんとそれは全長5メートルの巡航ミ サイルであった。アメリカ空軍の爆撃機から誤 投下されたAI搭載のしゃべれる巡航ミサイル ・ルーくんと美葉ちゃんの、銀河を股にかけた ナンセンス・ドタバタ・ハードSFスペオペの 始まり始まり。 ひょんなことから宇宙に飛び出したこのコン ビ。ルー君は、核弾頭と引き替えにスチャラミ ッシュ人による改造を受け、光速の17万60 00倍で航行したり、バリアを張ったり、1/ 50サイズに縮小できたりするようになった。 美葉2の粗筋: 前作で色々あって地球の座標を見失った美葉 ルーコンビは、食べ物を求めてとある惑星に着 陸する。そこで不思議な味のキノコを食べた美 葉の口からはなんとレーザー光線が出るように なってしまうのだ(苦笑) 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2 まあともかくご一読を(大爆笑!) ともかく面白くて笑えます。ハードSFファ ンも大笑い間違いなし! ★『星の書』イアン・ワトスン著 細美遥子訳、94/7/1、創元SF文庫、600円 《黒き流れ》三部作第二部 粗筋: 川の東西間に勃発した戦争も終わり、ヤリー ンは自らの体験を<川の書>に記し始める。久 しぶりに両親の元に帰ったヤリーンは、宿敵エ ドリック博士に殺されてしまう。しかしその魂 はワームの計画に従い地球の赤ん坊の肉体に再 生する。そこでヤリーンは、ゴッドマインドと ワームの時空を越えた確執を知るのであった> 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 巻を追うごとに益々奇想天外に冴え渡るワト スン節。でも、ヤリーンが地球に再生するのは ちと唐突かも(苦笑) ★『戦争を演じた神々たち』大原まり子著 94/7/29、アスペクト、1900円 戦争と創造の本質に迫る短編集。 「天使が舞い降りても」 脳内生体構造型宇宙船に乗船している、妻を 目前で死なせた過去を持つ船長と、創造する力 を失った宇宙創造者の老人の物語。 「けだもの伯爵の物語」 「楽園の想いで」 「異世界Dの家族の肖像」 マッドサィエンチストによって創造された、 異世界の生態系を描く物語。 「宇宙で最高の美をめぐって」 ある年老いた技術者が作り出した美しき人工 生命体を描いたドタバタ調の作品。思わず仰け 反ってしまうくらい受けました(^^)v 「戦争の起源」 あらゆる欲望を満たしてくれる惑星に降り立 った記者の経験したことは・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 大原まり子さんの魅力の総てが詰まった短編 集です。 「戦争の起源」の中の「戦争とSMこそが、 われわれのやってきたことなのだ。」というの は、小谷真理女史風に言い換えると「戦争とS Mこそが、男性SF作家の書いてきたことだ」 になりますね(苦笑) ★『無限の境界』 ロイス・マクマスター・ビジョルド著 小木曽絢子訳、94/7/15、創元SF文庫、750円 お馴染みマイルズ・ヴォルコシガンが主人公 の中編集。 『戦士志願』『親愛なるクローン』に続く第3 弾です。 内容:「喪の山」「迷宮」「無限の境界」 「無限の境界」 敵の捕虜収容所惑星からの一万人の大脱走劇 を描く、ヒューゴー・ネビュラ両賞受賞の『親 愛なるクローン』の前日談です。 「迷宮」 『自由軌道』に出てきた四本手のクァディー も出てくる遺伝子工学が主題のちょっといい話。 「喪の山」 まだ因習に縛られる山村を舞台にした、人間 性とは何かに踏み込む好中編です。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆ ちょっと考えさせる冒険活劇がお好きな方に は大推薦です! お話し作りの巧さには定評があるロイス女史 ですから。 ★『臨界のパラドックス』 ケヴィン・J・アンダースン&ダグ・ビースン 内田昌之訳、94/7/31、ハヤカワ文庫SF、700円 粗筋: 反核活動家エリザベスは、巨大粒子加速施設 に対する破壊活動中に事故に遭遇し(へまをや らかした)50年前のアメリカにタイムスリップ してしまう。そこではマンハッタン計画が着々 と進行中だった。当然ながら彼女は計画を阻止 すべく身分を偽って侵入するが・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 自分の意志とは関係なく歴史の歯車に組み込 まれてしまっていく反核活動家の悲哀を描きま す。アメリカの原爆制作を阻止しようとする歴 史への介入が思わぬ結果を招きます。でも、け っしてホーガンの『プロテウス・オペレーショ ン』のような派手な立ち回りを期待しないよう に(苦笑) ★『スチール・ビーチ』ジョン・ヴァーリイ著 浅倉久志訳、ハヤカワ文庫SF、94/7/31 上下巻(680,700) 題名は、かつて魚たちが海から陸へ上がって いったように、人間たちもやがて鋼鉄の浜辺に 上がっていくだろうという洞察から出たものの ようです。人類も母なる自然から追われて、自 らが作り出した人工の環境へと適応を迫られる のです。 設定: 人類を遥かに凌駕する技術を持ったエイリア ンの侵攻で、地球上の人類が全滅して二百年後、 エイリアンは相変わらず地球に居座っているが、 月の人類やその他の惑星には手を出してこない。 脳さえ無事ならどんな負傷(首を切り落とさ れても)でも助かるし、男女間の性転換も自由 自在となったこの世界の新聞記者ヒルディが主 人公です。 導入: 地球侵略二百周年を迎えた特集記事の取材で 忙しいヒルディには、なんと自殺願望があった。 しかし自殺を試みる度に元通り再生され、直前 の記憶は抹消されるために、本人は全く気が付 いていない。この事実を月のセントラル・コン ピュータから告げられたヒルディは愕然とする。 しかもこの傾向は、全人類に広がり、ルナ全土 で自殺率が急増しているというのだ。 評価:☆☆☆☆ 『蛇使い座ホットライン』よりは完成度は高 いと思います。ただし破天荒さでは、負けてい る(苦笑)ちとこじんまりまとまりすぎかな。 ヴァーリイ氏はハインライン氏を大尊敬してい るようで、これに出てくる自意識を持ったセン トラル・コンピュータは、「月は無慈悲な夜の 女王」だし、「異星の客」のV・M・スミスの 名前も出てくるし、スリップスティック・リヴ ィの名も。 いかにもSFSFしたSFをお求めの総ての SFファンにお薦めの作品です。 ★『エミリーの記憶』谷甲州著 94/7/31、徳間書店、1600円 「逝きし者」 とある惑星のゲリラ戦で敵兵の尋問係をした 半テレパスの悲劇を描く。 「死神殺し」 「猖獗戦線」 「竜次」 「過去を殺した男」 警官訓練用のヴァーチャル・シュミレーター で起きた悲劇とは。 「ぼくの街」 仮想現実を利用した治療を受ける孤立症の青 年のお話。 「エミリーの記憶」 お互いの感覚を共有できるドラッグによるセ ックスを描いた短篇。 「L(ララ)」 「子どもたちのカーニバル」 「宗田氏の不運」 「十年の負債」 「響子と陽子」 超能力を持つ探偵と多重人格者を絡ませたお 話。 「消えた女」 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 SFアドベンチャー誌に掲載された86年から 89年に書けて書かれた非宇宙ものの短編を全面 加筆して収録したもの。 ★『ミステリーゾーン4』 リチャード・マシスン他 矢野浩三郎訳、94/8/10、文春文庫、540円 懐かしのTVシリーズ<ミステリーゾーン> の原作短編集。オールドファンは、読めば思い 出す好短篇ばかり。 収録作品は: 「レディに捧げる歌」チャールズ・ボーモント 「高度二万フィートの悪夢」R・マシスン 「日々是好日」ジェローム・ビクスビー 「死の宇宙船」リチャード・マシスン 「夢を見るかも・・・」C・ボーモント 「消えていく」リチャード・マシスン 「吠える男」チャールズ・ボーモント 「遠い電話」リチャード・マシスン 「素晴らしきかな、電子の人」ブラッドベリ (「歌おう、感電するほどの喜びを!」です) 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 3が出てから4年目^^; 思春期にミステリーゾーンを見たオールドフ ァンは必見です。 ●『真珠たち』久美沙織著 '94/7/31、ハヤカワ文庫JA、460円 SFマガジン'87/8月号から'94/6月号に渡って書 きつがれた4篇の連作中編集。 「冒頭部」「病院船」「黒真珠」「闇の女王」 粗筋: 近未来。真珠病という全身が真珠質に変質し、 やがて死に至ると言われる不治の病が、全世界に 蔓延しつつあった。原因は精神的なものとされて いたが、罹患した患者は隔離され、進行を止める には性腺を摘出しなくてはならなかった。 一方、そうした手術を拒み、全身の完全な真珠 化に身を任せた患者達は、本当に死んでしまうの だろうか。それともある医師の言うとおり、新し い種族が形成される第一歩なのであろうか・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 『日本アパッチ族』→『鉄男』へと続く日本変 身譚を正しく受け継ぐ本格SF。まあ小松先生の全 身が鉄と化してしまうというのに比べて、久美さ んのは、真珠化ですからちょっと女性的ではあり ますね(どこがだ^^;) ●『大江戸フランケンシュタイン』まさきひろ著 '94/8/9、蝸牛社、1800円 粗筋: 江戸時代を代表する"風来山人"こと科学者平賀 源内。彼の最も重要な発明は、1977年のエレキテ ルという木の箱。源内は、これを用いて「天火蘇 生秘術」なる死者復活術の実験を行おうと画策し ていた。 しかし運の悪いことに源内は殺人事件に巻き込 まれ、弟子たちの手で「天火蘇生秘術」のモルモ ットとされ、見事蘇生してしまう。 源内は、現世をはかなみ、自らの発明した最新 テクノロジーを駆使してアイヌとともに蝦夷開発 に夢を見いだす無欲な人間として再生する。 しかし新技術を手に入れようとする世界の列強 の手が・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 平賀源内とガルヴァーニ、シーボルト、メアリ ・シェリーを絡めたあっと驚く歴史改変小説。 ●『エヴァが目ざめる時』ピーター・ディッキンソン著 唐沢則幸訳、'94/8/31、徳間書店、1500円 粗筋: 近未来の地球。資源は枯渇、自然環境は破壊され、動物たちもチンパンジー などわずかな種類を除き絶滅し、人類は増大し続ける人口に倦み活力を失って いた。人々は、喧噪たる大都会の中で、シェーパーという立体TVを意味もな く見続ける毎日だった。 交通事故で身体が滅茶苦茶になり大学病院に運び込まれた少女エヴァは、両 親の希望もあり、その記憶一切合切をチンパンジーの雌の脳に転写する手術を 受けた。 エヴァが目覚めると、自分はもとの姿ではないことを知る。しかし幼い頃か らチンパンジーに親しんできたエヴァは、なんとかその事実を受け入れ、この 苦境に立ち向かっていくのだ・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆ イギリスの児童文学はなんて進歩的なんでしょうね。この作品がジュヴナイ ルとは。この後、エヴァは、雌のチンパンジーの中に残った野生と共存し、人 間としての知性とチンパンジーとしての野生をバランスさせ、新しい道を感動 的に切り開いていくのです。 臓器移植法案が可決された折りもおり、子どもだけでなく大人にもぜひ読ん でもらいたい一冊ですね。 ●『エイダ』山田正紀著 '94/8/31、早川書房、2000円(SFM,'91/4-'93/8) 発端: ゾロアスター教を国教と定めたササン王朝にその怪物は現れた。アジダハー ク(脳漿をむさぼる蛇)と呼ばれるそれは、物語の物語を語り始める。 一方江戸時代の日本では、杉田玄白のもとに間宮林蔵が訪れ、択捉で邂逅し たという怪物について話を聞かせる。 そして階差機械<ディファレンスエンジン>を発明したバベッジとプログラマーの元祖と も目されるエイダのもとに、怪物の生みの親たるメアリ・シェリーが訪れる。 21世紀、常陸市郊外に建造されることになった超伝導大型粒子加速器<エイダ> は、その制御に量子コンピュータを用い、人類は量子宇宙に積極的に関与し始 めた。量子コンピュータは、機能そのものが不確定性原理のゆらぎのなかに漂 い、量子レベルの現象を観測することによって、そのリング内に出現する平行 宇宙のミニチュア版についても観測記述することができるようになった。その 並列世界は、現実と対応しない「物語」からも影響を受け始め、「物語」によ る作家の選別も起こっていた(SF作家の作品は、影響力がないという(苦笑) また我々の宇宙の規範(ビッグバン宇宙論)とは異なる平行宇宙には、別の 規範(プラズマ宇宙論)があり、この相いれない二つの宇宙は、量子的な宇宙 論においてのみ一致していた。そして、人類が<エイダ>によって、量子論的宇宙 に干渉を開始した時、虚構が現実を浸食し始めた・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆ 見ようによっては、ギブスン&スターリングの『ディファレンス・エンジン』 が終わったところから始まったと言える本書は、歴史改変ものであると同時に 優れたメタフィクションでもあり、プロパーSF出身の山田正紀氏が、既存の 文学界に突きつけたコアSF側からの壮大な挑戦でもあると言えます。 また読み返してみて驚いたのですが、「素粒子のストーリーを記述すること によって超空間転移を可能にする」とかいうシーンが出てきます。 これはベアの『火星転移』('93)に出てくる”素粒子自体に含まれている情報 を操作することによって、莫大なエネルギーを引き出したり、空間的性質を変 えて瞬間的移動を可能にするという<ベル連続体理論>”のアイデアそのもの じゃないですか。ただしそれによって紡ぎだされた物語は、天と地ほども異な りますが。 またこの本の中で登場人物に語らせているように、衰えつつあると言われる SF業界人として、またそれ以上に語り部としての山田正紀氏が「SFにはこ んなことも出来るんだ!」という渾身の力を込めた作品と言えましょう。 私は特に、「僕たちが"現実"だと思っていることはじつは、人間の脳という センサがその構造に則ってとらえただけの"現実"に過ぎない」。夫婦が同じ"現 実"を共有しているように見えても、二人は別の"物語"のなかにいるんだ。とい うことは、長年連れ添った夫婦と言えども、各々の"人生の物語"は違い、永遠 にクロスすることは無いということに(あ、当たっているだけに虚しい・・・) ●『ブルー・シャンペン』ジョン・ヴァーリイ著 浅倉久志他訳、'94/8/31、ハヤカワ文庫SF、700円 「プッシャー」1982年度ヒューゴー賞受賞 SFではお馴染みのテーマを新しい切り口で見 せてくれる手際に感服ヽ(^。^)丿 一見"ロリコンの変態オジサン"が、可愛くて聡 明な少女に語ったお話しの真の目的は・・・ 「ブルー・シャンペン」1982年度ローカス賞受賞 私の一押しの短篇!\(^o^)/こういう"Love A ffair"を書かせたら、SF作家で、ヴァーリイ氏 の右に出るものなしヽ(^。^)丿 同じ恋愛感情を扱った名作『歌う船』がプリン の味なら、こちらはコーヒー・ゼリーの味とでも 申しましょうか、そのbitterな味わいがたまりま せんねえ^^; 私のSF短篇ベスト3に入ってますv(^^)v(^^)v しかし帯の"人工骨格を装着した少女のほろ苦い 恋を描く"ってのはどーにかならなかったのかなあ。 主人公(というか語り手ね)は、彼女の恋人にな る男性なんだし、第一、32歳なんだから、いく ら若作りしても少女とは言えまい:-) 「タンゴ・チャーリイとフォクスロット・ロメオ」 1991年星雲賞受賞、SFマガジン読者賞受賞 「ブルー・シャンペン」と同じ背景で描かれる ドラマチックな短篇。まあ一度読んでみて下さい。 「選択の自由」 性転換が自由になった時代の<心理的葛藤>を描 いた短篇。見ようによってはフェミニズムSFかな 「ブラックホールとロリポップ」 なんと喋るブラックホールが出てくる。しかし一 筋縄ではいきませんヽ(^。^)丿 「PRESS ENTER■」 ~~(カーソルです(^^)) 1985年ヒューゴー・ネビュラ賞受賞、1986年星雲賞 受賞。 コンピュータ・ホラーSFとでも言いましょうか。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆! 標題作の「ブルー・シャンペン」は、以前に新潮 文庫の宇宙SFコレクション『スターシップ』に掲 載されて大感激した短篇です。これが再び読めるよ うになったとは嬉しい限りヽ(^o^)丿 ●『ゼノサイド』オースン・スコット・カード著 田中一江訳、'94/8/31、ハヤカワ文庫SF上下巻、700+680円 粗筋: ルジタニアで現地の女性と結婚して現地に留ま っているいるエンダーは、スターウェイズ議会が ルジタニアを殱滅しようと粛清艦隊を派遣したこ とを知る。ピギーにとっては新しい生の助けとな るが人類にとっては致命的なデスコラーダ・ウィ ルスの蔓延を恐れるあまりの仕業だった。 早速エンダーはアンシブル・ネットワーク上知 性であるジェインと共にそれを阻止すべく活動を 始めるが・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ デスコラーダ・ウィルスとピギーとの関わりも 良く書けていて面白いところですが、やはりアン シブルとジェインとエンダーと洞窟女王とピギー のあっと驚く相関関係がすごいですね。私はこれ を、カード氏の大統一理論と呼びたいですヽ(^。^;)丿 プロパーSFファンにもパートタイムのSFフ ァンにも等しくお薦めできる傑作であることは確 かです。ただし三巻全部読まなきゃ面白さも半減 するのが難点か^^; ●『第四次元の小説』R・A・ハインライン他 三浦朱門訳、森毅解説、'94/9/20、小学館、1500円 地球人ライブラリー・シリーズ 収録作品: 「タキポンプ」エドワード・ペイジ・ミッチェル 「歪んだ家」R・A・ハインライン 「メビウスという名の地下鉄」A・J・ドイッチェ 「数学のおまじない」H・ニアリング・Jr. 「最後の魔術師」ブルース・エリオット 「頑固な論理」ラッセル・マロニー 「悪魔とサイモン・フラッグ」アーサー・ポージス 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ もともとは57篇からなる大部の『ファンタジア ・マセマティカ』というアンソロジーの内、空間 に関する10篇を集めた『第四次元の小説』(荒地 出版社)いう本がずいぶん昔に出ていたのですが さらにその中から7篇を選んだ短編集です。 私も図書館のを借りて読みました。懐かしい(^^)v "クラインの壷"とか"メビウスの輪"とかいう言 葉を知ったのもこの本からです。 ●『悪夢狩り』大沢在昌著 '94/9/25、実業之日本社、780円 粗筋: 米軍が秘密裏に研究開発していたナイトメア90 それは飲むと人間を怪物化させるドラッグだ。 それが一般の薬に混じって新宿にたむろする若 者たちの手に渡ってしまい、それを元傭兵のフリ ーランスの軍事顧問牧原が追う。やがて事件に深 入りした牧原は、自らを怪物化する羽目に追い込 まれる^^; 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 著者自らがB級映画ののりで書いたとするSF アクション。パワフルで面白いヽ(^o^)丿ただし 大沢さんに厳密な科学性を期待しないように :-) ●『虚空王の秘宝(上・下)』半村良著 '94/9/30、徳間書店、各1600円 『虚空王の秘宝(上)』は、『虚空王の秘宝I』('78)の改題、再版。 で、下巻の最終章が月刊「問題小説」の'94/7に掲載されたそうですから、 なんと16年がかりということですね。 発端: 何者かの謀略により、罪に陥れられた露木は、伯父の手助けによりある 地下組織と接触する。その組織こそ、行方不明となった露木の父親をキャ プテンとして、虚空王の秘宝を探求する集団だった。彼等は、その秘密を 狙う国家権力と虚々実々の争いを繰り広げていた。その秘宝とは、遥かな 太古に墜落した巨大宇宙船で、そのエンジンを修理できれば、人類は夢の エネルギー源を得ることになるのだ。そしてその国家は世界に君臨するこ とになる。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 珍しや日本の宇宙SFものです。しかもコアSFと呼べるだけの作品は 久しぶりではないでしょうか! しかし、同じファーストコンタクトをするにしても、アメリカと日本で は描き方がずいぶん違いますね(日本の場合は思弁的になりやすい傾向が) マクダウエル氏の、ファーストコンタクトがルーティンワークと化して いる世界はともかく、クラーク氏などでもあくまで科学的に相手を記述し ていきますよね。この本の場合は(根底に『妖星伝』と同じ思想がありま すが)異星人=人間の問題として捕らえられているように思いました。 全能の宇宙船に乗った主人公が、生活世話係りのボガンと呼ばれるロボ ット(アンドロイド?)と、惑星探査に赴くシーンは、石原氏の<シオダ とヒノ>のコンビを思い出しました(^^)v(二人の会話で科学解説してい く点とか、どことなく落語調になるとことか) ●『栄光の星のもとに』ロバート・A・ハインライン著 鎌田三平訳、'94/9/30、創元SF文庫、600円 1957年に講談社から出ていた『宇宙戦争』の全 面改訳版。ハインライン氏のクリスマス・ジュヴ ナイルSF未訳の最後の一冊。 粗筋:: 地球・金星間航路の宇宙船の中で生まれ両方の 市民権を持つドン・ハーベイは、地球の寄宿学校 に通っていた。ある日火星にいる両親から"急い で帰ってくるように、船の料金は払い込み済み" との連絡を受け取る。 取るものも取りあえず宇宙港に向かったハーベ イは、途中両親から頼まれた通り伯父さんに会い 指輪を受け取る。しかしそれがそもそもの事件の 発端だとは、彼には知る由もなかった。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 ストレートなジュヴナイルSFを読みたい方に お薦めヽ(^。^)丿底に流れるヤンキースピリットは 『宇宙の戦士』と共通か:-) ●『ヴァーチャル・ガール』エイミー・トムスン 田中一江訳、'94/10/15、ハヤカワ文庫SF、680円 粗筋: コンピュータの天才(というかコンピュータお たく ^^;)のアーノルド。彼は過去においてAI が反乱を起こしたために研究そのものが禁止され ている人工知能の研究をしているばかりか、自ら の伴侶にすべく、そのAIを美少女の姿をしたロ ボットに移植する。 彼女は人間と寸分変わらない姿と優しい心を持 っている。しか彼女マギーは、見つかれば即座に 破壊されてしまう禁断の存在なのだ。 お金を信託講座から引き出したことでアシがつ きそうになった二人は、実業界の大立者であるア ーノルドの父親の捜索の手を逃れて逃避行に出る のだが・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 まあちと食い足りない面はありますが、マギー が優しくて可愛いから許そうヽ(^。^;)丿 でも、この作品は基本的にはフェミニズムSF の枠組みを一歩も出ていないと思う。 最初は、アーノルド(男性の象徴。ちと変わっ ているけど他に人間がいない)に対する完全な依 存。それから彼を喜ばせるのを最大の目的にする ようになる(これはそうプログラムされているか らだけど、世間一般で女性が男性に傅くような教 育を受けるのを象徴していると思う) そして外的要因で、アーノルドと分かれて世間 に放り出され、様々な人間と知り合い、自分で生 きていくことを知りる。そして仲間と出会い、そ の自立を助ける。 最後に、生みの親のアーノルドと再開し、彼の 欠点を見据え、彼から完全に自由になり自分の生 きる道を選ぶ。ね、まるっきしフェミニズムSF小 説でしょう? ●『天界の殺戮』グレッグ・ベア著 岡部宏之訳、94/10/31、ハヤカワ文庫SF、上下660円 粗筋: 前作『天空の劫火』で、地球は、未知の異星人 の手による惑星破壊機械の襲来により宇宙空間の 塵芥と化してしまった。その惑星破壊機械製造者 に対抗する異星人の作り出した宇宙船によって辛 うじて助け出された数千の人間達は、"銀河法典" の存在を知る。この法典によれば、惑星破壊機械 を送り出した種族は、その破壊された惑星の生き 残りによって滅ぼされねばならないというのだ。 かくて生存者の中かから選ばれた85人の子供た ちが復讐の旅に出た。遥かな憎しみの星を探して 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ この小説の核心は、個人(あるいは少数の人間) に、ある文明の帰趨を制する判断が出来るのかと いうことだと思います。ベア氏は、それに比較的 肯定的な結論を下したように見えますが、果たし て真相は・・・ もっとも、この主題でカード氏が書いたらまっ たく違った結末になったかも知れませんね^^; ということで、バーサーカー+忠臣蔵(『地球 の汚名』by豊田有恒)のこの作品はなかなか楽し めるものに仕上がっていますヽ(^。^)丿 ●『旅立つ船』アン・マキャフリー&マーセデス・ラッキー 赤尾秀子訳、'94/11/4、創元SF文庫、680円 この本は《歌う船》シリーズであるのは確かなの ですが、傾向としては『クリスタル・シンガー』 や『銀の髪のローワン』に近い物があります。 誤解を恐れずに言えば、ハーレクインロマンスS Fと言ってもよいでしょうヽ(^。^)丿 粗筋: 7歳のおしゃまな娘ティアは、考古学者である 両親とともにある無人星の発掘現場に滞在してい た。両親が発掘に出たある日、ティアは一人で発 掘の真似事をしに行きそこで大発見をするが、そ の際に異星の病原菌に犯されてしまう。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 『歌う船』では殻人(いわゆるサイボーグです ね)になれるのは一歳までの子供という規制があ りましたが、ティアは7歳。もうそこでどういう 結末になるかはある程度想像がつくというもの。 まあそれはそれで整合性があるということかも知 れません。『歌う船』ファンの方もそうでない方 もぜひどうぞヽ(^。^)丿 ●『デウス・マシーン(上・下)』ピエール・ウーレット著 瀬戸千也子訳、'94/11/11、ベネッセ、各980円 粗筋: 21世紀初頭のアメリカは病んでいた。失業率は30%を超え、国民はローン 債務に喘いでいた。国民の窮状をよそに、政府の金が怪しげな企業に流れて いることを突き止めた役人が、仕事中に不可解な死を遂げた。そして、それ が事件の発端だったのだ・・・ 細菌兵器の開発を企む某組織は、人工知能を持つ新型コンピュータでDN Aを組み替えのための<遺伝子プログラム言語>を作ろうとしていた。とこ ろがその時、遺伝子の隠された秘密を守るために遺伝暗号イントロンが逆襲 を開始する。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2 無名の作家ということで、あまり期待しなかったのですが読ませました。 いままで不用と思われていた人DNAの塩基配列イントロンが実は・・・ というのは、梅原さんの『二重螺旋の悪魔』にも出てきましたが、この本で はそれに対抗する自意識を持った人工知能も出てきてより壮大な作品になっ ています。パワフルさでは『二重螺旋の悪魔』の方が上でしょうが、厳密な 考証という面では、『デウス・マシーン』の方に分があるような気もします。 ●『やけっぱち大作戦』ジョー・クリフォード・ファウスト著 坂井星之訳、94/11/15、ハヤカワ文庫SF、680円 《エンジェルズ・ラック》シリーズ第一巻 粗筋: 「あなたの飛行に天使の幸運を」というのは昔 から宇宙に飛び出す時の決まり文句。しかし船名 につけたが最後、ろくなことが起きない不吉な言 葉として忌み嫌われているそうな^^; さてこの栄えある名前を自分のボロ宇宙船につ けたメイ船長。その定説通り、やることなすこと 裏目に出てばかり。今日も今日とて、ずぶの素人 のデュークをコ・パイロットとして雇わなければ いけない羽目になる。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ ユーモアSFに目のない私としましては、うれ しい一冊。系列としては、キース・ローマの由緒 正しき後継者と言ったところ。ロバート・アスプ リンの『銀河おさわがせ中隊』がお好きな人には、 大推薦です\(^O^)/ ただし、一巻の半分くらいまでは、設定通りい かにこのコンビがついていないかが強調される展 開ですので、ちと面白くないかもしれません。そ こまでくれば、後は一気呵成に読み進める、戦う 仲間達の熱き友情満載の由緒正しきスペオペ。 ●『存在の書』イアン・ワトスン著 細美遥子訳、'94/11/25、創元SF文庫、600円 《黒き流れ》三部作完結編。 粗筋: 前作『星の書』で子どもの身体で故郷に戻ったヤリーンは、巫女として祭り 上げられ、日々回顧録を執筆中であった。しかし後二年で、この宇宙の全存在 は、ゴッドマインドによって焼き尽くされてしまう。ヤリーンは、それに対抗 するために神殿にやってきた女には<流れ>を飲ませ、カ倉庫に入らせる準備 を進めつつあった。また男たちのためには、ワームとの間である取り決めを行 って対処する計画をまとめあげた。 そんななか、<真実の探求者>ギルドから誘われ隠れ家へと出かけたヤリー ンは、そこで時間遅延作用のあるキノコ薬を飲み驚天動地の体験をする・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ この三部作は、少女ヤリーンの成長譚・冒険譚であるとともに、人とは宇宙 とはという形而上学的問題を描いたものではないでしょうか。想像力の限界に 挑戦したともいえるワトスン氏の傑作です。 ワトスン氏の作品としては、どちらかと言えばSF寄りの『スロー・バード』 とファンタジー寄りの『マーシャン・インカ』の作風が、程良くミックスされ たところかな。 ●『殺戮のチェスゲーム』ダン・シモンズ著、 柿沼瑛子訳、'94/11/30、ハヤカワ文庫NV、上中下各720円 粗筋: 人間を離れた場所から思うがままに操り、人々 の苦しみや死を糧として若さ保つマインド・ヴァ ンパイア。普通の人間が彼らに対抗するのにいっ たいどんな手段があるというのか。(その手段は、 下巻の後半で明らかになります。感動の大円団!) 彼ら恐怖の能力者の勢力争いに巻き込まれた主 人公達が、巨大な悪に翻弄されながらも、個の尊 厳を保とうとする姿が感動的に描かれています。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ マインド・ヴァンパイアの能力とか限界、また それに対する対抗手段が科学的であるなど、SF ホラー小説として出色の出来映え。その迫力ある 描写に長さを感じさせませんヽ(^o^)丿 しかし、よくもまあ、主人公クラスの登場人物 がバタバタ死んでいく小説ではあります:-) ●『熱帯雨林の彼方へ』カレン・テイ・ヤマシタ 風間賢二訳、94/11/30、白水社、2600円 白水社の WRITERS X シリーズ。 この本の著者のヤマシタ女史は、アメリカで生 まれて日本に留学、ブラジルで十年暮らした劇作 もこなすぶっとんだ日系作家:-) 粗筋: ある日突然、額の中心から数センチのところで 回転する銀色の不思議な球体と離れ難く結びつい てしまったカズマサ少年。やがて彼にとってその ボールはペットであり友達となった。 さてこの物語は、なんとこの銀色の球体の思い 出話として進行して行きます。 国鉄でボールの特殊能力で線路の不具合を見つ ける仕事に嫌気が差したカズマサは、ブラジルへ とやってきます。そこで彼が出会うのは、鳥の羽 を使って心と体の平安を得るという「羽教」の教 祖となった老人。また伝書鳩を使ったネットワー ク作りで大金持ちになった夫婦。熱帯雨林の中に 忽然と出現した不思議な「万能擬態プラスチック」 をめぐる三本腕の実業家とやがてその奥方となる 乳房が三つある鳥類学者。そして、他人のかけた 願のために巡礼をする純真な少年。 これらのフリークスが織りなすスラップスティ ックな世界ヽ(^。^;)丿 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 エコロジーSFとでも申しましょうか。その不 思議な味わいは一読の価値があると思います。 ●『日本SFの大逆襲 !』鏡明編集 '94/11/30、徳間書店、1700円 日本SF大賞と日本ファンタジーノベル大賞の 授賞作家によって書かれた、ほぼ全てが書きおろ しの新作。巻末の解説は「日本SFの歩み」と題 して森下一仁さんがヽ(^o^)丿 「渇いた犬の街」 山田正紀 「ぬかるんでから」 佐藤哲也 「露と答へて」 夢枕 獏 「都市盗掘団」 筒井康隆 「テクストの地政学」 柾 悟郎 「虚空の噴水」 堀 晃 「まん丸で四角いもの」 岡崎弘明 「モナリザの爆発」 荒俣 宏 「ホテルさくらのみや」 北野勇作 「モンナリイザ掠奪」 佐藤亜紀 「ELECTRIC BIRD LAND」 大友克洋 「蛸の街」 かんべむさし 「水域」 椎名 誠 「ボール箱」 半村 良 「マジックムーン」 川又千秋 「絶唱の瞬間」 梶尾真治 「蝉時雨」 横田順彌 「科学と虚構」 小松左京 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2 現代日本SFの到達点を示す秀作ぞろいです。 なんと言っても堀晃さんの新作ハードSFが入っ ているし、これはもう読むきゃない! ●『くるぐる使い』大槻ケンヂ '94/11/30、早川書房、1200円 同名の短篇は、第25回星雲賞受賞! 著者曰く「史上初の<超常現象青春小説>」。 収録作は、 「キラキラと輝くもの」「くるぐる使い」「憑かれたな」 「春陽綺談」「のの子の復讐ジクジグ」 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 筋肉少女帯のVoでもある大槻さんは、昔からのSFファン(オカルトファン、 諸星大二郎ファン:-)で、筋少の歌にもそれらしいものがあります。 で、この本では超常現象とかオカルト話を取り上げているんですが、視点が SFのそれなんですね。つまりできるだけ合理的な結末をつけようとしている。 そして視点が弱者の側に立ってますね。異常現象(精神錯乱)を自分の問題と してとらえることができるというのは、得難い感性だと思います。う〜ん、誰に 似ているかなぁ、しいて言えば、ストリッパーの話を書く時の田中小実昌さんの 感じかな(マティスンの『吸血鬼』他を訳しておられます) ●『ヴァーチャル・ライト』ウィリアム・ギブスン著 浅倉久志訳、'94/11/30、角川書店、1900円 粗筋: 2005年、大震災に見舞われたサンフランシスコ のベイブリッジは、無数のホームレスに占拠され 無法地帯となっていた。(それ以前に東京も超震 災ゴジラにより壊滅していた) かつては車が通っていたデッキ部分に住む者、 そこからトレーラーハウスでぶら下がる者、その 上はもっと込み入った街区が伸びている。そして ケーブル塔のてっぺんに住む者もいる。この橋自 体が、赤瀬川源平のいうところの<トマソン>都市風景 のなかにある無意味だが奇妙にアート的な物体そ のものであった。 この街で、日本製バイク(ハイテク自転車ね)により 情報配達業に従事する女情報配達人シェヴェット は、とあるパーティで出会った男からVL<バーチャ ル・ライト>を盗んだためにある組織から追われる羽目 に陥る。 そして、失職した元警官のライデルも、新しい 雇い主の要望で、そのVLとシェヴェットを捜す ためにサンフランシスコにやってきた。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ なんと言うか、物語の骨格はマンハントものな んですけど、キブスンが書こうとしているのは、 未来において壊滅状態で無法地帯になり、トマソ ンと化したサンフランシスコの街そのものなんで しょうね。 VLの説明がほとんどないのも、それ自体がた いして重要ではないからでしょう。それが内部に 持っている情報そのものが、重要なわけですから。 少し削って中編くらいの長さにしろとか、逆に 徹底的に書き込んで倍の長さくらいのを読みたか ったなど、様々な意見もあるようですが、私もス ピード感やドライブ感が若干欠けるかなと言う感 じはしました。もっとも、あのチップとか電脳空 間が出てこないのも、大きな要因のような気もし ましたが^^; ●『ハイペリオン』ダン・シモンズ著 酒井伸明訳、94/12/15、早川書房、2900円 1990年度ヒューゴー賞&ローカス賞受賞ヽ(^o^)丿 粗筋: 28世紀、人類は転移網により銀河系全体に広が っていた。連邦の高度技術を管理するのは、意識 を持つ超AI群<テクノコア>で、その予知能力は連邦の 政策さえ左右していた。しかし<テクノコア>の予知能力 が及ばない不確定要素が銀河には存在した。それ が惑星ハイペリオンである。 惑星ハイペリオンには人類が入植する以前から、 抗エントロピー場に包まれた<時間の墓標>と呼 ばれる謎の塔が存在していた。そしてその塔を"シ ュライク"という時を超越した伝説の怪物が守って いるのだ。この<時間の墓標>への巡礼を目的と するシュライク教団が設立され、銀河中から巡礼 が訪れるよう になっていた。 ある晩、ハイペリオンの元領事のもとに、<時 間の墓標>を閉じこめている抗エントロピー場が 膨張し、シュライクが解き放たれる前兆が現れて きているので、至急戻られたしとの要請が届く。 ついに<時間の墓 標>が開きその全貌が明らか になるかも知れない。この秘密を探るべく決死の 巡礼隊としてハイペリオンに深い関わりのある7 人が旅立つ。 おりしも宇宙の蛮族アウスターも、この謎を我 が手に納めんとハイペリオンへの攻撃を開始した。 構成: 物語につれ、巡礼者がそれぞれ自分とハイペリ オンとの関わりについて物語るという形式で進行 します。 ジョン・キーツの同名の物語詩(私は読んでま せんが^^;)を下敷きにした構成で、『ハイペリオ ン』と対をなす続編の『The Fall of Hyperion』 からなります。つまり全2巻というわけですね。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆!! お話づくりの上手さは、カード氏と同等かそれ 以上。SFガジェットをちりばめる手際の良さは、 ヴァーリイ氏なみかそれ以上ヽ(^o^)丿 SFファンなら読むっきゃない。ただし価格が 最大のネックかヽ(^。^;)丿 ●『クラゲの海に浮かぶ舟』北野勇作著 '94/12/20、角川書店、1400円 粗筋: 主人公は、ネクストライフという会社で、人工 生命体の研究をしていた技術者だったが、会社の 方針が気に入らず辞職してしまう。同時に会社に よって、それまでの会社に関わる記憶をすべて消 去されてしまった。 彼の住んでいる半分水に浸かったアパートの近 所から、直径5kmのダイアモンド・リングと呼ばれ る建造物が見える。それが彼が研究していた新し い生物であり、アミューズメント都市でもあった。 あったというのは、すでにそれは機能を失い、崩 壊を始めているからである。そしてそこから逃げ 出してきた、陸クラゲと呼ばれる人工生命体が、 そこここでも見られるようになってきていた。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 毎度お馴染みの、ディックが落語の台本を書い たというか、現実と非現実、本物と偽物がないま ぜになった独特の感じです。 今回は、今まででいちばんSFぽくってなんと なくうれしいヽ(^o^)丿 最初の章は、オールディスかバラード、はたま た椎名さんあたりに近い雰囲気だし、次のは設定 が『ブラッド・ミュージック』してるもんね。 動物愛護団体「地球の緑の丘」なんてのも出て くるし^^; ●『愛死』ダン・シモンズ著 嶋田洋一訳、'94/12/25、角川文庫、760円 愛と死との狭間で揺れ動く人間像を描く五つの 中編集。 「真夜中のエントロピー・ベッド」 損害保険業界の内幕と事故の役割を「宇宙の熱 死」的に描く:-)(作者によるとカオス理論の人間 的側面に捧げる感謝の歌だそうな) 「バンコクに死す」 エイズが蔓延する現代、想像を超えた情痴の世 界をバンコクに求めたホラー 「歯のある女とネタ話」 「ダンス・ウイズ・ウルヴス」に反発して書か れたというネイティヴ・アメリカンの伝承譚 「フラッシュバック」 ある特定の過去の出来事を再び体験できる薬が 引き起こす結末とは(これが一番SF的) 「大いなる恋人」 第一次大戦に巻き込まれた天才詩人達に捧げる 中編。(これは、『ハイペリオン』の兵士の物語 にモチーフがそっくり。ファン必読) 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/3 ダン・シモンズのファン必読。オカルトからフ ァンタジー、SFまで、シモンズ氏の芸達者ぶり が実感できる好中編集です。 ●『サマー・オブ・ナイト(上・下)』ダン・シモンズ著 田中一江訳、'94/12/30、扶桑社ミステリー、上700円下680円 粗筋: 1960年、アメリカ中西部の田舎町エルムヘイヴンに威容を誇ってきた オールド・セントラル学校が取り壊されることになった。終業式の日、 教室を抜け出し、古いトイレで壁の穴を見つけたタビーは、誘われるよ うにその穴に潜り込んだ。その時微かに悲鳴のような声が聞こえたが、 それに気づいた者はごくわずかだった。 子供が行方不明になったことに気づいたタビーの家族は学校な掛け合 うが、校長以下教師たちはまったく取り合おうとしなかった。そこで、 仲の良い少年グループが、彼の捜索に乗り出した。そうした矢先、老女 教師の見張りを仰せつかった少年が、校舎の二階の壁から落ちて大怪我 をする。彼は、教室で女教師がかつての同僚と合っているのを窓越しに 見たのだ。しかしその同僚は、少し前に死んだはずであった・・・ 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆ 少年たちが主人公のホラー小説です。でも『ハイペリオン』の作者で もあるシモンズ氏は、ホラーの要素を必要最小限にとどめ、見事に整合 性のある恐怖世界を描き出しています。ホラー嫌いのSFファンにも『 殺戮のチェスゲーム』とともにお薦めできます。 ●『裏山の宇宙船』笹本祐一著 1994/12/31、ソノラマ文庫、上巻500円、下巻540円 粗筋: 文字どおり、主人公の美少女が住む家の裏山か ら、埋もれた宇宙船を発見する話です。ヽ(^。^;)丿 で、作法に則り、重力や作用反作用、エネルギ ーなどについてお勉強もできるという仕掛け。 独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2 舞台が田舎の裏山から一歩も出ないにも関わら ず大宇宙を感じさせるというシマック氏のヒュー ゴー賞短編「大きな前庭」を思い起こさせるスト レートなジュヴナイルSFで好感が持てます。 (誉めすぎ?(^^;)v)