「SFハンドブック」(早川書房)を読む。
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           |     オールタイム・ベスト     |
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 *1989年2月号で発表されたSFマガジン読者の選んだオールタイム・
  ベストSF(確かに早川の本ばっかしだなぁ^^;)

*その1。(26P-29P)
 「夏への扉」:オールタイム・ベストのNo.1。

中学時代に銀背を擦り切れるくらい繰り返して読みました。
「技術は古くなっても名作は古びない。」と言う見本のような作品ですね。
(一応、皆さんが読んでらっしゃるという前提で書いてます。)
 と言うわけで、その1はハインラインです。(どんなわけじゃ^^;;)
しかし、いまさらという感じもありますので簡単に。^_^;)
お話作りのうまさもさることながら、好きなのはむやみに感傷的にならないと
ころ。(初期の作品には目的のためには、死んで潔しとするところが確かにあ
った)
 子供やうら若き女性を辛い目に遭わせて受けを涙を誘うのは安易に過ぎる、
と常々考えています。(でもすぐ乗せられて、ついほろりとしてしまう。^^;;)
と書いてきて「ポディの宇宙旅行」(創元社)を思いだしてしまった。
これは15歳の女の子がちょっと辛い目に遭うお話ですよね。^^;;(まあ死ぬ
わけではないから・・)これを読んだアレクセイ・パンシンが、私ならこう書
くと言って書いたのが、ネビュラ賞を授賞した「成長の儀式」でしたよね。
(関係ないけど、これも好き!だったので)

 で、最後に私の選んだハインラインのベスト3。
1:「月は無慈悲な夜の女王」(革命の話だー。左寄りかな:-))
2:「宇宙の戦士」(軍隊に行ってこそ男は一人前。右寄りだ。:-))
3:「異星の客」(かつてはヒッピーの聖典と言われた。^_^;)

 晩年の「愛に時間を」はまあ許せるとして、「獣の数字」「フライデイ」
「ウロボロス・サークル」ははっきり言って、今いちだった。(主人公に対す
る感情移入を拒否する書き方だ。^_^;)

*その2。(30P-33P)
 「幼年期の終わり」:オールタイム・ベストのNo.2。

 中学生の時、これと「人間以上」を読んで不覚にも涙した思い出があり
ます。^^;;人類の進化(メタモルフオーゼ)(進化させられている)について読んで
泣くほどの感動を覚えるのはSFの醍醐味ですね。(子供が中学生になっ
たら、ぜひ読ませたいです^_^) ハードSF作家の始祖と言われるクラー
ク氏ですが、アンダーソン、ブリッシュ、ポール新しいところではベア、
ベンフォードと挙げていきますと、ハードSF作家には文学的香りが不可
欠のような気もします。^_^
  老いたりといえども3巨匠の内、ハインライン氏、アシモフ氏も最近鬼
籍に入られた昨今、長生きして新しい作品を期待したいですね。

 好きな作品ベスト3
1,「幼年期の終わり」:説明不要の名作。若いうちに読みたいものです。
2,「渇きの海」:パニック小説としても一級の面白さ。
3,「海底牧場」:宇宙飛行士が海にという設定で読ませます。

*その3。(34P-37P)
 《銀河帝国興亡史》:オールタイム・ベストのNo.3。

かつて「岡山SFファンクラブ」においては「夏への扉」よりもこちらを読ん
だ人の数のほうが多かったという、もっともポピュラーなSFシリーズ。
(最近はローダン・シリーズのほうが読んだ人は多いだろうな^^;;)
 しかしなんですねー、ここに登場する<心理歴史学>なるアイデア(個々の
人間の行動は予測できないが、十分大きな集団になればその趨勢を統計的に予
測できる)は、その最もらしさで「宇宙船ビーグル号」に出てくる<情報総合
学>と共に、子供心にはひどく魅力的に写りました。^_^
 たとえ科学的にはありえなくても<銀河帝国>というアイデアはいつの時代
にもSFファンの祖国愛(人類が一番!)をくすぐるところがあるようですね。

 アシモフ氏の著作の中でなにが一番好きかと言うと、
「われはロボット」「ロボットの時代」など一連の「ロボット三原則」に則っ
て書かれた短編です。SFに「三原則」という規則を持ち込むことによって、
作品にミステリー形式の謎解きの要素が加わり面白さが倍増していますね。^_^
 特に「サリーはわが恋人」は、筒井氏の「お紺昇天」と共に、車好きのSF
ファンにとって涙無くしては読めない傑作短編です。:-)

*その4。(38P-41P)
 《アルジャーノンに花束を》:オールタイム・ベストのNo.4。
(いまさらの感もありますが、順番に書いてますのでご勘弁を _o_)

 いままでも、さらに将来もSFベストには必ず顔をだすと思われる名作中の
名作。女子高生にも安心して薦められるのも良いところです。^_^
 以前「銀河通信」で《アルジャーノンに花束を》において、原型となる短編
の方が好きか、それを発展させた長編の方が好きかが議論されてましたが、結
論としては、最初に読んだ方のインパクトが強く、そちらをより好きだと言う
結果でした。
 つまり短編から入った人は長編は冗長だし、長編を先に読んだ人は短編は物
足りなく感じるわけですね。(私?私らの世代にとってはあの凝縮された短編
が総てです。^_^。しかしもう長編の方が有名な時代なのですね〜。)

*その5。(42P-45P)
『火星年代記』:オールタイム・ベストのNo.5。

 今回改めて読み返してみて、感慨にふけりました。やっぱり良いものは何年
たってもしみじみと良いですね。
 火星人が全滅した後、火星に到着した探検隊員が、火星の文明を守るために
仲間の隊員を殺していく「月は今でも明るいが」。
 火星に第二のアッシャー家を建て、ポーの作品通りに復讐を遂げていく男の
話「第二のアッシャー邸」。『無知ってのは致命的ですよ。』
 地球で核戦争が始まったため、ほとんど人のいなくなった火星で出会った一
組の男女。しかしあんまりな女だったために、男はそこから遠く離れた町に住
み、たまに鳴る電話にも決してでなかった。「沈黙の町」
 そしてこれは『火星年代記』ではないのですが、火星を住み易くするために、
昔使った色々な家具を火星に運んでくる「いちご色の窓」。(R IS FOR ROKET)
 毎年一度、霧笛の呼ぶ声に答えて、百万年前から深海の奥深く住んでいる恐
竜が仲間に会いにやってくる、同じ短編集の中の「霧笛」。

 その昔、高校生の女の子に「刺青の男」を貸したら、好きな短編に丸を付け
て返してよこしました。^_^;)ついでに紹介しますと。
 宇宙飛行士だった父親が太陽に落ちて死んだ為に、昼間は絶対に外出せず、
雨降りの日にだけ散歩する習慣になった悲しい母子の話「ロケットマン」。
 どんな風景でも他人に見せることができる能力者(勿論地球の光景も)が、
火星に現れたことから起きる悲劇を描いた「訪問者」。
 大枚2000ドルをはたいて作ったバックヤード・ロケット。果たしてこれ
で本当に火星に行けるのか?妻は疑うが、男と子どもたちは素晴らしい経験を
して帰ってきます。そして妻も・・・「ロケット」。

 私はだいぶ忘れてましたが、皆さんはいくつ覚えていますか?^_^

*その6。(46P-49P)
《デューン・シリーズ》フランク・ハーバート オールタイム・ベストのNo.6。

 作者の綿密な設定による砂漠の惑星『アラキス』の魅力が、このシリーズが
人気を呼び、書き続けられることなった主原因ではないでしょうか。
 この過酷な環境に生きる人間をも含めた宇宙の生態学的ダイナミックスは、
細部までよく考察されていて、そこに展開する人間達のドラマをより興味深い
ものにしていると言えますね。
 これだけの環境生態学的視点から書かれた壮大な長編小説は、それまでなか
っただけに(よく知りませんが^^;;)日本でも圧倒的人気を呼んだのでしょう
ね。(作者がシリーズ中途にして、お亡くなりになったのがおしまれます。)
 表紙は以前は石ノ森さんだったのが、最近の版をみますと違うのですね。
(sf会議でも、ずーっと前に賛否両論があったようですが・・・)

  なんといっても、私はダンカン・アイダホが好き!

 で、フランク・ハーバードと言えばもう一つ忘れてはいけないのが、
「鞭打たれる星」「ドサディ実験星」の《ジャンプドア・シリーズ》が
あります。(どちらも創元文庫版、13年前の本なので読んでいない人
もあろうかとおもいますので、粗筋も紹介しますね。)

 「鞭打たれる星」:星間旅行のために《ジャンプドア》を使わせてやろうと
カレバンという謎の存在が申し出た時から、知的生物連合内のほとんどの生物
がこれを利用してきた。しかしこのカレバンの最後の一匹が、人間の一女性と
の契約で鞭打たれエネルギーを失っていく。そしてカレバンの存在が不連続と
なる時、《ジャンプドア》を利用したことのある全ての生物の存在も消滅して
しまう。この危機をサボタージュ局員マッキーはどう乗り越えるか!
 異星生物間のコミュニケーションの困難さが主題のこの小説の見所は、やは
りカレバンと主人公の禅問答にも似たコンタクトでしょう。カレバンの存在の
不連続化が「快楽ノ推定的反対,究極ノ不連続ヲモタラス」などという会話?
が続きます。:-)
  ちなみに《サボタージュ局》とは、元々は政治の先走りを是正する部門でし
た。^^;;

  「ドサディ実験星」:マッキーはゴワチン連邦が、多数の人間とゴワチン人
をある星に幽閉し、実態不明の実験をおこなっているという情報を入手し、ド
サディ星に潜入する。ドサディ星の住民は弱肉強食・権謀術策を是とするよう
に仕向けられ、住民の中の最も悪辣な者が権力者となるような社会体制を強い
られていた。
 主人公は、ドサディ星の反体制派の女闘士ジェドリックと恋いに落ちるので
すが、このジェドリックさんは、マッキーよりも知力体力共に優れているとい
うSFファン垂涎の頼りがいのある姐御なのですよ。^_^;)

*その7。(50P-573)『虎よ、虎よ!』アルフレッド・ベスター
 オールタイム・ベストのNo.7

 1956年発表の本書は、時代の波に褪ることのない魅力を備えている希有な魅
力を持った傑作です。例えば70年代から80年代に発表されたディクソンの
「ドルセイ・シリーズ」が、今読むと既に古くさい感じがすることを思えば、
これはたいへんなことですね。(「ドルセイ」ファンの方、ごめんなさい。_o_)

  それは、全ての人間が手にいれたジョウント効果(一種のテレポーテーショ
ンですな)により、世界に新しい慣習や法規がぞくぞく生まれ、ジョウント以
前の産業が滅び、倒産、恐慌、飢餓が襲ってきた時代が十分描かれていると言
う事と(現代のSFでもなかなか:-)、主人公のフォイルの悪漢としての魅力
によるところが大きいと思いました。なにせ誰でもジョウントできるので、刑
務所も一工夫してあります。^_^;)
 ベスターと言えば、破格の作家の印象が強いですが、こういうSFとしての
ファンを喜ばせる基本はきちっと押さえているのが心憎いところです。^_^

  同じ作者による「分解された男」も、魅力的な悪党(ベン・ライク)が主人
公の復讐劇で、読者としてはただ主人公に感情移入してしまい、ライクの大願
成就を願うばかりで、最後の場面には思わず涙してしまいます。^^;;

 他の翻訳された作品としては「ピー・アイ・マン」(短編集、創元文庫)、
「コンピュータ・コネクション」(サンリオ)があります。

*その8。(54P-57P)『リングワールド』ラリイ・ニーウン
 オールタイム・ベストのNo.8。
 
 71年度のヒューゴー・ネビュラ両賞授賞作です。この作品と同じく<ノウン
スペース・シリーズ>に属する「中性子星」('66)がSFマガジンの'69年8月号
に載った時、ハードSFとしての<センス・オブ・ワンダー>を私は確かに感じました。^_^
 可視光線以外何者も通さないはずの、ゼネラル・プロダクツ社製二号船殻を
通して、何が乗組員を殺したかが主題のこの短編は、その年のヒューゴーを授賞
しています。(もう少し後に書かれていたなら、「中性子星」ではなくて「ブラ
ックホール」という題名だったかも? ^_^;)
 表面積が地球の3,000,000万の広さを持つリングワールドの設定だけではなく、
これは<ハードSF冒険小説>としても、かなり楽しめる作品になっています。
 ベンフォード氏がニーヴンくらいのストーリー・テラーの才能があれば、最高
の<ハードSF大冒険小説>が出来上がるはずなのですが・・・:-)
 
  また、これに登場する幸運の遺伝子を持った<ティーラ・ブラウン>の存在は
愉快ですね。パペッティア人が、宝くじに当たるなどの運の良さを持つ地球人を
選択的及び恣意的に交配させた結果、未来の地球は幸運の遺伝子を持った人々で
占められ、もはや地球に悪い運命が降り懸かってくることはありえないくなって
しまうというのが絶妙のおかしさです。^_^;)おっとこれは「リングワールド」よ
り、はるか未来のお話でした。

*その9。(58P-61P)『アンドロイドは電気羊の夢をみるか?』フィリップ・K・ディック
  オールタイム・ベストのNo.9。

   で、この作品はもう言うことが少なくなったので、
最新刊の『フロリクス8から来た友人』創元SF文庫、650円、を行きます。
“突然変異で出現した<新人><異人>などの超人に支配された未来の地球。
平凡な<旧人>に属する主人公は、ひょんなことから圧制を打破しようとする
地下組織に荷担することになってしまう。彼らの希望はただ一つ、10年前に
外宇宙に救いを求めて旅立った英雄プロヴォーニだけだった・・・”
 地下組織のかわいこちゃんをめぐり、主人公のさえないおっさんと、<異人>
である公共安全特別委員会議長との鞘当を織り込みながら、物語は進んで行き
ます。結末は、ディック氏らしいというか、ホロ苦いというか、欲求不満にな
る終わり方ではありますね。^_^;)
(これは『アンドロイド・・・』の二年後に出版された同時期の作品です。そ
 れにしても創元SF文庫は、未訳の本を全部出すつもりらしいですね。^_^)

  この作品は、ディック氏にすれば、ストレートな書き方で、あまり実験的な
部分はないような気もします。これは、ディック氏が“あそことは二度と仕事
をしない”と公言していた編集者と出版社のために、生活のために書いたと自
ら語っているのと、関係がありやなしや?(実験的な試みに対する批判に腹を
たてていたそうです。ちなみにエースのウォルハイム氏のこと。)

 で、このネタをどこから仕入れたかといいますと・・・

『フィリップ・K・ディックの世界』ポール・ウィリアムズ、ペヨトル工房、2233円
 ディック氏の著作権管理人であるポール・ウィリアムズ氏が、ディック氏と
の対話をもとに、生涯の秘密、創作背景に迫ります。
 特に1971年の自宅侵入事件に関する話は、創作背景をうかがう貴重なも
のでしょう。(私は、今まで詳しい話は知りませんでした。^^;;)
 
 J・ティプトリー・ジュニア氏が、ディック氏への手紙のなかで
『あなたの立場はヴォネガットに似ていると思います。ただしあなたは彼の欠
 点を克服しているし(中略)私は最近、ヴォネガットはその欠点のために主
 流文学に身を置くことになったような気がします。』
などと書いてあると、思わずニヤリとしてしまいます。(あっ、私はヴォネガ
ット氏も大好きであります。^^;;)

 他にペヨトル工房のディック氏の本は
『ラスト・テスタメント』グレック・リックマン、2400円、死にいたる発作の前夜、自ら
 の霊的ヴィジョンを余すところなく語ったロング・インタビュー。
『銀星倶楽部12 特集■フィリップ・K・ディック』死後刊行された作品や
 作家研究の紹介。未公開写真。知人の語る素顔。書誌、年譜などの最新デー
 タを完備。

*その10。(62P-65P)『ソラリスの陽のもとに』スタニスワフ・レム
  オールタイム・ベストのNo.10。

  二重星を公転する惑星ソラリス、計算ではその軌道は不安定で、とっくに主
星に“墜落”しているはずであった。そして研究の結果、軌道を安定させてい
るのは、ソラリスの海らしいと判明した。そしてこの“海”の研究を始めてか
ら100年たった現在でも、その本質は不明のままであった。

 「アメリカのSFでは、他の惑星の知性体との接触にはだいたい3つの紋切
り型がある。それは『相共にか、われわれが彼らをか、彼らがわれわれをか』
で、これでは余りに図式的すぎる。しかし、私は未知のものをそれ自体を示す
ことによって、予想や仮定や期待を完全に超えるものとして描きかったのであ
る。」と、著者がしているこの本は、31年前に出版されたとは思えない新鮮
さで今も健在です。(日本語訳は27年前。当時私は中学生で、初めて読んだ
時は、さっばりわからず詰まらなかった思い出があります。当時、一番好きだ
ったのは、クレメントの「重力の使命」。これは都合十数回読みました。しか
しこれに出てくる宇宙人は、レムの描くそれとは対照的に極めて人間臭く、そ
こが分かりやすくて良かった。^^;)
 人間に理解できない存在を、あるがままに書いたこの作品はその先駆性でこ
れからも読みつづけていかれる傑作だと思います。^_^

 レムの人間の理解を超えた存在とのコンタクトを描いた作品は、他に
「エデン」「砂漠の惑星」(どちらも早川書房刊)があります。

        '92. 9. 5 (Sat)改訂4版


「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.11
 編集部のお薦め作品その1。(82P-83P)
『バベル−17』サミュエル・R・ディレイニー
1,粗筋
 はるかな未来、銀河を二分する宇宙戦争が行われていた。高名な詩人である
東洋系の26歳の美女<リドラ・ウォン>は、その天才的な暗号解読の才を買
われて、インベーダー側の謎の通信“バベル−17”の解読を依頼される。
 “バベル−17”は短い文でおびただしい程の情報量を有することのできる
非常にコンパクトな言語であり、あらゆる点で柔軟性を持ち、単語の組み合わ
せ次第で的確な意味のセットが無数にできるあいまいさの全くない完全言語で
あった。つまり“バベル−17”で思考するということは、迅速でしかも正確
な思考ができるようになるということだった。
 物語は、リドラが数々の冒険を乗り越え、その言語の才能を生かし“バベル
−17”を解読し、その秘密を解きあかすのがメインプロットです。

2,お薦め度 ☆☆☆☆☆
(オールタイムベストテンの作品を☆5とした場合の相対評価^_^)
 海外SFのファンならどなたにもお薦めできますね。特に言語学や認識論に
興味のある方は、特にお薦めです。私はこれを読んだ当時、レウィ=ストロースもソシュール
も知らんかったけど(今も知らんけど^^;)大変おもしろく読めました。

  ディレイニーはあちらでは大層人気のある作家ですが、日本での人気は今一
つですねー。何ででしょう?^_^;)プロットはパルプを洗練した感じで絢爛豪華
だし、色々なガジェットは詰め込まれているし、ディック氏があれだけの人気
を誇っているのだから、彼ももっと人気が出てもよさそうなものですが・・・

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.12
 編集部のお薦め作品その2。(84P)
『宇宙船ビーグル号』A・E・ヴァン・ヴォクト
1,見所
 巨大猫型生物のケアル(ダーティー・ペアのムギですね ^^;)、絶対真空の
中でも生き続ける不死身の怪物イクストル(こいつは殺しても死なない奴^^;)
最後が無形生物アナビス(M-33星雲を覆い尽くす巨大さ^^)などの魅力的な超
生物の数々。
 エリオット・グローヴナーが部長として乗り込んでいる(一人だけ^^;)情報
総合学なる新しい学問のもっともらしさ。アシモフ氏の短編『まぬけの餌』に
も、似たような教育を受けた主人公が登場しますね。
 更に、さらに渋いのが、日本人科学者、刈田の提唱する【周期学説】なる理
論。この理論によってくだんの未知の超生物も、「あっ、この怪物は、<小農
民期>に属しますから、次の行動は***ですね」と、あっさり行動を予言されて
しまいます。分類されたとたんに、<未知の超怪物X>から<単なる強い宇宙
生物>に格下げです。^_^;)
 この絢爛豪華なストーリー展開は、やたら強い宇宙生命体(その体自体が兵
器だ)vs人類の知識(情報)に集約されると言ってよいのでしょうね。

2,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆☆
(オールタイムベストテンの作品を☆5とした場合の相対評価^_^)
 宇宙活劇のお好きな人には、絶対!のお薦め。まだ読んでない人は幸せとい
うものです。^_^
  ヴォクト氏は、こういういかにもそれらしい疑似科学の出し方がたいそう上
手ですね。氏の本を読んで、シュペングラーの『西洋の没落』やハヤカワの『思考と行動
における言語』やコーウジスキーの『一般意味論』などを探し回った人も多いと思い
ます。^_^

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.13
 編集部のお薦め作品その3。(85P)
<ノースウェスト・スミス>C・L・ムーア(初めて女性作家の登場です^^)
1,粗筋
 惑星から惑星をめぐっている謎の人物。どうやらお尋ね者か、いわくつきの
人物らしいのだか、作者がわれわれの関知するところではないと書いている位
だから、正体不明である。彼は金星人の相棒ヤロールとともにいろいろな星で
いつも事件に(それと、美女 ^_^)遭遇し、きまって生命をあやうく失うよう
な危機に陥り、あわや落命という時に、相棒に助けられたり、熱線銃の一発に
よって救われるというパターンです。
 その風貌は挿し絵の松本零士さんの描く劇画の無法者そのまま。^_^ 実際、
はまってましたねー。しかしその外観とはうらはらに、肉体を使った格闘シー
ンはまるでなく、たいてい精神の格闘(拷問)に終始します。(まあ、相手が
魔力を持った絶世の美女達だから、しょうがないわね。)
 結局主人公よりも、その相手の魔女の美しさ、妖しさを描くことにに重点が
おかれた小説であると言えるかもしれません。それだけにその魔女たちの耽美
的退廃的魅力はたいしたもので、時ならぬ胸の高鳴りを覚えたものでした。^^)
(なにせSFばかり読んでて、おくてだったものでして・・・:-)

2,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆
(オールタイムベストテンの作品を☆5とした場合の相対評価^_^)
 まあ、万人向けとは申しませんが、この手の作品がお好きな方には、こたえ
られない面白さといえるでしょう。野田元帥閣下が、この本の翻訳を仁賀氏に
さらわれた時、失恋のショックのあまり泣きあかした:-)エピソードは有名で
あります。^^;)
「大宇宙の魔女」「異次元の女王」「暗黒街の妖精」の三冊があります。
他に、
「暗黒神のくちづけ」処女戦士ジレル・シリーズ
「新世界の黎明」ムーア氏には珍しい近未来ハードボイルドアクション

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.14
 編集部のお薦め作品その4。(86P)
<宇宙都市シリーズ>ジェイムズ・ブリッシュ
1,粗筋(4冊あるので、おおまかですが・・)
 21世紀、人間を自然死から開放する《抗老化剤》と、画期的な星間移動法
《反重力推進スピンディージー》が開発された。そして、都市をそのまま《ス
ピンディージ》の力場でおおい、<宇宙都市>として多くの都市が老いさばら
えた地球を後に、宇宙へ旅だった。
 広大な銀河を舞台に、星々の渡り鳥<オーキー>となった都市と人間の生活
を叙情豊かに歌い上げます。
 そして最後には、宇宙の破滅が数年後に迫っていると知った主人公達は、い
かなる行動をとったか?50年代のハードSFの真骨頂を示した作品です。^^)

2,読む順番(まことにお節介ですが・・・^^;)
 作品の設定年代順に読みますと      書かれた年代順ですと
 1,「宇宙零年」('56)          1,「地球人よ、故郷に還れ」('55) 
 2,「星屑のかなたへ」('62)        2,「宇宙零年」('56)
 3,「地球人よ、故郷に還れ」('55)    3,「時の凱歌」('58)
 4,「時の凱歌」('58)          4,「星屑のかなたへ」('62)

となりますが、まずは書かれた年代順に「地球人よ、故郷に還れ」を読まれて
面白ければ、次を読むというのが、よろしいのではないかと・・・^_^

2,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆1/2
(オールタイムベストテンの作品を☆5とした場合の相対評価^_^)
 ハードSFファンには特にお薦め。「タウ・ゼロ」が面白かった方には、さら
にお薦め。^^)ハードSFには、文学的薫りが似合うとお思いの方にも。
 ブリッシュの他の有名作品としては
「悪魔の星」(ヒューゴー賞授賞作、創元社)宇宙人の原罪を扱った作品で、キリスト
教の素養がない高校生の私には、ちと難しかった。(今でも変わらんか:-)
 あと、晩年は<宇宙大作戦シリーズ>のノヴェライゼーション(というか、脚
本)のほうが有名でしたね。^^;)(なかなかいいものがありますね)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.15
 編集部のお薦め作品その5。(87P)
『中継ステーション』クリフォード・D・シマック

  ハインライン『栄光の道』、ハーバート『砂漠の惑星』、ノートン『魔女の
惑星』、ヴォネガット・Jr『猫のゆりかご』などの強敵を退けて '63年度の
ヒューゴー賞授賞作に選ばれました!!!面白くないわけがない!
 今月のSFマガジンの「てれぽーと」欄にも、『中継ステーション』を読んで感
動したというお便りが載ってましたね。我が意を得たり!と、シマック氏にな
りかわり喜んでしまった。^^)
1,特徴
  アメリカの片田舎の農場に秘密裏に作られた銀河系の星々を結ぶ中継ステー
ション。物語はその中とごく限られた周囲で進みます。しかし、作者の力量は
たいしたもので、片田舎を舞台にしつつも、背後に広大な銀河の広がりを感じ
させます。(これがシマックの得意とするパターンではあります。『大きな前
庭』なんかも、同じですね。)シマックの暖かさ、人間に対する信頼が一番よ
く表れている作品だと思いますね。

2,15才の時の感想文。(それほど感動したということですが^^;)
 この作品は、ぼくの胸のなかにある宇宙的な物の何か、それが文字となって
表れたような作品である。今、考えてみると、それは宇宙において語られる人
間の素晴らしさだったのかもしれない。(以下、略。ああ、恥ずかしい。^^;)

3,独断と偏見のお薦め度(誰が何と言おうと!) ☆☆☆☆☆
(オールタイムベストテンの作品を☆5とした場合の相対評価^_^)
 『夏への扉』『アルジャーノン・・・』などがお好きで、本書が未読の方!
ぜひ読みましょう!決して後悔はさせません。^_^

4,他のシマックの本
『大宇宙の守護者』『再生の時』初期のスペオペです。
『都市』傑作連作短編集。読んだことの無い人はいない?:-)
『大きな前庭』『愚者の聖戦』読んで損のない、ほのぼのした味の短編集。
『なぜ天国から呼び戻すのか?』『人狼原理』『小鬼の居留地』『マストドニ
 ア』『法王計画』ファンになったら、読みましょう。^^;(以上、早川)
『妖魔の潜む沼』『宇宙からの訪問者』同上^^;。(以上、創元社)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.16
 編集部のお薦め作品その6。(88,89P)
《ペリー・ローダン・シリーズ》
 何をいまさら・・・^^;)
1,特徴
  ともかく、ともかくですねー、長いですねー。
 いま、最初から読んでみようという元気のある人は少ない?^^;
  
2,独断と偏見のお薦め度(今回に限り、割愛させて頂きます。_o_)

3,早川書房に対する要望 ^^)
  SFマガジンの'80年臨時増刊号「SF冒険の世界」に第500巻目の
「虚無からの使者たち」が載ったのが12年前。そろそろ第1000巻目
の紹介があってもよいのでは?(そういえば最近、臨時増刊号って全然出
ませんねー。けっこう楽しみだったのに・・・)ローダン・シリーズ特集
号を出して、これまでの粗筋もいっきに紹介して、新しい読者を開拓する
とか、だめですかねー。^_^

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.17
 編集部のお薦め作品その7。(90P)
《バーサーカー・シリーズ》フレッド・セイバーヘーゲン
1,設定
  はるかな過去、戦争のために生きとし生けるものの破壊だけが目的のおそる
べき殺戮機械が造り上げられた。そしてその戦争も終わり、製作者も滅亡して
もなお、その殺戮機械は自己複製と改良を続け、やがて人類と接触した。その
名を<狂戦士>バーサーカーと言う。(まあデススターが、全部意志を持った機械に
なったとこでも想像してください。^^;)
 ぬわ〜んと血わき肉おどる設定ではあ〜りませんか。この設定だけで、成功
を約束されたようなものじゃ。^^)
 といっても、このバーサーカー、機械の理論を押し進めるあまり、少しまが
抜けてる部分があって、可愛く思えないこともない。:-)
 でなきゃ、人類はすぐに滅亡させられて話が続かない。(「人類みな殺し」
じゃないからね。^^;)
  
2,種類
 ゲーム理論を応用した推理っぽいもの、オチをきかせたショートショート、
思考実験がらみの本格もの、ハードなもの、神話伝説の衣がえ(実はこれが一
番好きだったりします。「星のオルフェ」などの短編^^;)

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆1/2
(オールタイムベストテンの作品を☆5とした場合の相対評価^_^)
 「バーサーカー皆殺し軍団」「バーサーカー赤方偏移の仮面」
「バーサーカー星のオルフェ」(いずれも早川書房)の3冊があります。
あと、同じ作者の「西の反逆者」「黒の山脈」「アードネーの世界」
(いずれも早川書房)の<東の帝国・シリーズ>があります。
SF作家の書くファンタジーがお好きな方は、こちらもどうぞ!

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  「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.18
 編集部のお薦め作品その8。(91P)
《ゲイトウエイ・シリーズ》フレデリック・ポール
1,設定
  はるかな太古、謎の異星種族ヒーチー人が太陽系に残して行った人工天体、
それがゲイトウエイだ。その中にある操縦方法すらろくに解明できていないヒ
ーチー人の超光速宇宙船に乗って、多くの人々が未知の宇宙に飛び出した。
 この話は、主人公の英雄誌であると同時に、地球人類のヒーチー人に対する
“貨物崇拝”<カーゴ・タルト>の物語であると言えるかもしれません。
 またこのお話は良くできていて、各巻の終わりは疑問が未解決のまま残され
いやでも次の巻が読みたくなる謎解きの設定がなされています。^^;

2,主人公<ロビネット・ブローヘッド>
 内省型で、クヨクヨ悩むタイプ(最近では、あのベンフォード氏の主人公で
もこれほどではない:-)で、フロイト学派の:-)精神分析の人格ソフトによくか
かっているという、頼りない巻き込まれ型の主人公です。しかし、この主人公
の内心の葛藤が、この物語に深みを与えているのは間違いありません。^_^
 
3,独断と偏見のお薦め度 1と2☆☆☆☆1/2、3,4,5☆☆☆☆
(オールタイムベストテンの作品を☆5とした場合の相対評価^_^)
「ゲイトウエイ1,2,3,4」(1は文庫に入ったのかな?)
「ゲイトウエイへの旅」(多分最終巻)最後に読むことをお薦めします。

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.19
 編集部のお薦め作品その9。(92P)
「終わりなき戦い」ジョー・ホールドマン

 1976年のヒューゴー、ネビュラ賞のダブルクラウン輝いた傑作!
1,粗筋
 20世紀末、コプラサー(縮退星)ジャンプという画期的な恒星間航法が発
見され、多くの移民船が宇宙に送り出された。しかしある時、移民船が行方不
明となる。すわ、異星人の攻撃だというわけで、知能指数150以上、身体壮
健の男女が集められ、殺人マシンとなるべく徹底的な訓練を受ける。そして、
異星人に対する憎悪を人工的に植え付けられた彼らは、戦地へと赴く。
 この戦いは1143年続くわけですが、この戦闘の最初から最後まで戦った
(浦島効果による)ある戦士の記録です。
 しかし、ご安心あれ。そんなに暗い話ではありません。アメリカ人らしい乾
いたユーモアが散見され、さらにSFファンなら思わずニヤリのエンディング
も用意されています。^_^) 

2,時代的背景
 作者は1967年に徴兵され、戦闘工兵としてベトナムへ行き、そこで負傷する。
この体験が作品に活かされて、一種独特な厭戦感のある雰囲気をかもしだして
います。「宇宙の戦士」がベトナム以前の戦争SFの傑作なら、「終わりなき
戦い」はベトナム以後の戦争SFの傑作と言えるかも知れません。
 
3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆1/2
 ☆5つにしようかと思っていたのですが、読み返してこうなりました。^^;)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.20
 編集部のお薦め作品その10。(93P)
『エンダーのゲーム』オースン・スコット・カード

 1986年のヒューゴー、ネビュラ賞のダブルクラウン輝いた傑作!
1,粗筋
 二度にわたって地球に侵攻してこようとした昆虫型異星人バガー、地球軍司
官メイザー・ラッカムの天才的計略で、人類はからくもその攻撃を食い止めた。
しかし、ラッカムももう年齢からくる衰えは隠せなかった。至急に新しい艦隊
司令官が必要であるとの認識にたって、軌道上のバトル・スクールでは子ども
たちが日々そこで模擬戦闘=ゲームに明け暮れていた。その中で抜きんでた評
価を受けていたのがわずか6才のエンダーである。彼は様々なハンデのついた
ゲームにさえも勝利し、ついに異例の若さでコマンド・スクールへと進んだ。
(なんと言っても面白いのがこの数々の模擬戦闘のシーン。エンダーの潜在力
 を引き出そうとして教官達が、色々な難問をぶつけて来ますが、エンダーは
 その期待通りにあらゆるゲームに勝利していきます。しかし勝てば勝つほど
 仲間からは孤立していき、命さえも狙われるようになります。しかし教官達
 は、エンダーに頼れるものは自分だけだ、との自立心を確固たるものにすべ
 く、あえて手を出さないのでした。)

2,短編版と長編版
 '77年発表の短編版「エンダーのゲーム」(『無伴奏ソナタ』所載)は比較的
ストレートなスーパーマン・ストーリーで<ぐいぐい結末に持っていくうまさは
同じながら、カード氏独特のあくの強さがないぶん読みやすいかも知れません。
(結末のカタルシスはこっちの方が大きいかも。たとえ人類至上主義といわれ
 ても、クラーク氏の「太陽系最後の日」が感動的なのと同じです。^^;) 
 長編版は、エンダーの姉や兄(こいつがすこぶるつきのいやな奴:-<)との関
係も絡ませながら、エンダーの内面の成長にもスポットをあてて話をふくらま
せてあります。
 カード氏のお説教が好きな人は長編版、うっとうしいと思う人は短編版が好き
なのでは、といったところですか。

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆☆
  (オールタイム・ベスト10を☆5とした際の相対評価)
 カード氏の解説には思わず力が入ります。^^)
カード氏は、子どもを主人公にして虐め抜くのが好きなようで、「ソングマス
ター」でも、これでもかこれでもかとばかりにしごきまくっていますね。
日本において短編では一番の評価を受けている(私の想像^^;)「無伴奏ソナ
タ」でも、音楽の天才である主人公が、やむにやまれぬ気持ちから罪を重ねる
と、刑罰もそれに応じてエスカレートしていき、最後のクライマックスを盛り
上げます。(だいたいあんな些細な罪にあんなひどい罰があるもんですか。し
かし読んでる間はそれを感じさせないのがカード氏のうまさでしょうか^^;)

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 編集部のお薦め作品その11。(94,95P)
《宇宙大作戦》ジェイムズ・ブリッシュ他

 destroyさんの御依頼で、今回はわたしが担当になりました(^_^)。一部用語
が邦訳版と異なるかもしれませんが、御容赦を
1,設定
 時は23世紀、ジェイムズ・T・カーク船長指揮下の探査/パトロール宇宙
船〈エンタープライズ〉号の冒険の物語(所属は惑星連邦宇宙開発局)。人類
よりも優れた知性を持つヴァルカン人と地球人のハーフの副船長スポック、毒
舌のヒューマニスト、ドクター・マッコイ。こののお馴染みのトリオに主要ブ
リッジ・クルー達が加わり、宇宙探査や巡回パトロール任務などで惑星連邦内
を航行する〈エンタープライズ〉号が出会う事件の数々。
 現在、さらに約一世紀後の同じ宇宙を舞台にした、新スター・トレックが登
場し、ジャン=ルーク・ピカード指揮下の〈エンタープライズ〉号の出会う数
々の事件も並行して出版されつづけている。

2,歴史
 ことの初めは皆さんも御存じのように、アメリカNBC−TVが放映した7
8話のTVシリーズ。当時はアメリカがヴェトナム戦争の泥沼に深く足を取ら
れていった時代で、このシリーズにも痛烈な社会批判がちりばめられている。
(次のアーティクルに続く)

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2,歴史(承前)

 ノヴェライズを担当したジェイムズ・ブリッシュは、「宇宙都市」シリーズ
で知られたハードSFの巨匠で、パラマウントからノヴェライズを依頼された
ときは純粋に収入目的だった。だが、彼はノヴェライズを書き進めるうちに、
自らも熱心なトレッカー(能動的スター・トレック・ファン)となっていった
ようだ。
 現在、このシリーズは出版社をバンタム・ブックス社からバランタイン・ブ
ックス社を経て、パラマウント・コミュニケーション・グループのポケット・
ブックス社に移し、新シリーズの「新スター・トレック」と共にほぼ隔月のペ
ースで今も新作が書きつづけられている。

3,独断と偏見のお薦め作品ベスト5
 1.「地球上陸命令」〜「上陸休暇中止!」に至るまでのTVシリーズ・ノヴ
  ェライゼーション。ジェイムズ・ブリッシュ
 2.「二重人間スポック!」ジェイムズ・ブリッシュ
 3.「星なき世界」ゴードン・エクランド
 4.「エントロピー効果」ヴォンダ・N・マッキンタイア(未訳)
 5.「統合」ジェリ・テイラー(未訳)

                   Jly. 16 '92(Tue) mafujita/Masanori Okie

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.22
 編集部のお薦め作品その12。(96P)
『ダウンビロウ・ステーション』上下巻、C・J・チェリイ
 1982年のヒューゴー賞に輝いた傑作!

1,粗筋
 開始早々、10隻の輸送船団が軍艦に護送されてやってきます。他の宇宙ス
テーションからの6000人の難民が《ペル・ステーション》に到来し、有無を言
わさず強制収容させらたのでした。そのころ地球と地球に反旗を翻す《同盟》
(クローン人間の集団)は戦闘状態にあり、地球のステーションは次々と《同
盟》の手に落ち、最後に残ったのが《ペル・ステーション》だったのです。
 度重なる難民の受け入れによる混乱、ステーション機能の低下、地球《艦隊》
の策謀、《同盟》工作員の暗躍、内部の裏切りなど、ステーションには解決し
なければならない問題が続出します。そして困難を乗り越えた時、地球に残さ
れた最後のステーションが取った解決策とは?(げっ!と思いました。SFの
常道を無視した解決法とも言えます。:ー)

2,その他の作品
 <色褪せた太陽>三部作「ケスリス」
            「ションジル」
            「クタス」  いずれもハヤカワSF文庫

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆1/2
  (オールタイム・ベスト10を☆5とした際の相対評価)
 とにかくお話をつくるのが上手な作家という印象です。舞台背景(地球が今
どんな状態か、《同盟》世界はどうして地球に反旗を翻したかとか)も過不足
なく書き込まれているし、人物描写も立派なものです。そして物語は面白いと
きています。
 しかし、何といったらいいのかな、とんがったところのない作家なんですよ
ね。^^;SFの世界ではベイリーやラッカーのように、マッドとか奇想とか呼ば
れ、物語性に少々破綻があろうとも、どこかとんがったところのある作家がどう
しても高い評価を受け、読者の評判もいいようですね。

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.23
 編集部のお薦め作品その13。(97P)
『ブラックカラー』『超戦士コブラ』ティモシイ・ザーン
 1,
『ブラックカラー』設定
 熾烈を極めた星間大戦に敗れた地球民主帝国は、敵の星系による圧制をうち
破る最後の手段として、宇宙軍によって戦略的に隠された<超新星>級宇宙戦
艦5隻を回収すべく主人公を送り出す。彼こそ、地球に残された最後の希望だ
ったのだ!彼は、艦の隠し場所が記載された文書を入手するために、地球の生
み出した最強の戦士<ブラックカラー軍団>の生き残りを捜し出し協力を求め
ようとするが・・・
(ニンジャ+赤穂浪士+七人の侍の宇宙版ですねぇ。^^;)

『超戦士コブラ』設定
 人類の敵と戦うために<コブラ部隊>と呼ばれるサイボーグ部隊に配属され
た主人公は、体内に各種メカと武器を内蔵した超戦士となり、激しい戦いをく
ぐり抜けていく。しかし終戦とともに故郷に帰った主人公を待ち受けていたの
は・・・(アニメはあまり詳しくはないのですが、いかにもアニメにもありそ
うな話です^^;)

2,独断と偏見のお薦め度 ☆☆1/2
  (オールタイム・ベスト10を☆5とした際の相対評価)
 面白くないかというと、そんなことはございません。面白いし、読後の爽快
感もあります^^)
 しかし、SFならではの醍醐味を味合わせてくれる作品かというと、ちょっ
と違うので、どうしても評価が辛くなってしまいました。(ファンの方々、ご
めんなさいね。^^;)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.24
 編集部のお薦め作品その14。(98,99P)
<人類補完機構>コードウェイナー・スミス
1,設定
 <人類の再発見時代>人類の幸福のためすべてを管理しつくそうとした機構
が、人間の自由である権利(危険や疾病に曝される権利)を甦らせた時代。
 SFの未来史ものの中で、ひときわ異彩を放って輝くスミスの作品群。
 <人類補完機構>と呼ばれる支配集団を核とした未来史の連作は、お互いに
共鳴しつつ、他の追従を許さない独特の神話的雰囲気と、特異なリアリティと
きらびやかな世界イメージ、人間や世界に対する確かな洞察を持って我々に迫
ってきます。

2,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆☆
  (オールタイム・ベスト10を☆5とした際の相対評価)
 昔はファンダムでも、コードウェイナー・スミスの名前を出せばそれなりに
尊敬を集められた時代がありました。今はその魔力も薄れたかも知れませんが
まだ未読の人は、本屋にあったらぜひ読みましょう。一冊で普通のSF2,3
冊を読んだのと同じ経験値が得られる価値有るアイテムです。^^)
  もしあなたがうら若き女性で、想いを寄せる男性が海外SFファンなら(ほ
とんどSF的設定^^;)彼の耳元で、コードウェイナー・スミスとティプトリー
の名前を唱えれば、もうそれで彼はあなたの虜。まだ彼の名前にはそれくらい
の魔力は残っています。^^)

3,出た本(たった2冊!伊藤、浅倉氏、早く翻訳を^^;)
「鼠と龍のゲーム」短編集。
「ノーストリリア」著者唯一の長編。
 あとSFマガジンに載った短編が数編と、メリル女史編の「年間SF傑作集」
に収録された短編が数編。たったこれだけ、邦訳のある全作品を読んだとして
もたいした量ではありません、未読のあなたも、この際ぜひスミス氏の神話世
界に遊んでみませんか(^_^)                        

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.25
 編集部のお薦め作品その15。(100P)
『スタータイド・ライジング』ディヴィド・ブリン
 '83年度、ヒューゴー&ネビュラ両賞ダブルクラウンに輝く大傑作!
1,粗筋
 人類の手で知能を高められたイルカと人間のチームで操縦される探検船
<ストリーカー>号は、とある辺境宇宙で、ひとつひとつが地球の月ほど
もある5万隻の大宇宙船団を発見した。この想像を絶する太古から漂流し
ていた大船団は、5つの銀河に広がる宇宙文明の創始者<始祖>の遺産に
違いなかった。その秘密を手にした種族は全宇宙の覇者になれる!
 <ストリーカー>はこの発見をさっそく母星に送信するが、人類に敵対
する総ての銀河種族がそれを傍受していた!大船団の空間座標を手にいれ
ようとする悪玉種族連中の大攻勢を、きわどいところでかわした我が<ス
トリーカー>は、海の惑星に姿をくらました。
 銀河系のあまたの種族が、<始祖>に始まる先進種族に知性を授けられ
宇宙航行の技術を教授された中、ただ人類だけが、独力で宇宙に乗り出し
イルカやチンパンジーに知性を授けていたのであった! 

2,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆☆
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価)
 まだの人は、ともかく一読を!決して損はさせません:-)
 ブリン氏は、人によってはあの"WASP"的思想が鼻につく、という方もいらっ
しゃるとは思いますが、なぁに、氏はそれをわかっててやってるのだと、私は
思いますね。古き良き時代の強いアメリカ像と、決して困難に負けず最後には
打ち勝つアメリカ人の姿が、そこにあります。またこれがアメリカ人を喜ばす
んですよね。^^)子供の頃、「パパはなんでも知っている」とか「ローンレンジ
ャー」「ミッチと歌おう」なんかを見て育った私なんかも、心地よかったりし
ますから、そうとう毒されてるとはいえますねぇ^^;

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.26
 編集部のお薦め作品その16。(101P)
《スターウルフ》エドモンド・ハミルトン
スペース・オペラの水脈をみごと現代に蘇らせた傑作シリーズ!
カバーの絵も伝統にのっとり、半裸の美女であります^^;
《キャプテン・フューチャー・シリーズ》だけではありませんぞ^^)

1,設定
 茫漠たる大銀河せましと、神出鬼没の略奪をかさねる生まれながらの無法者
<スターウルフ>たち。彼らヴァルナ人は高重力惑星で育ったために得た頑強
な体と素早さを武器に、銀河にその悪名をとどろかせていたのだ。
 主人公のモーガン・ケインは、もともとはヴァルナ星に宗教を根づかそうと
やってきた地球人宣教師の間にできた子供だが、彼らとともに育ったために同
じく強靭な身体を持っていた。ケインはいさかいから<スターウルフ>の仲間
を殺してしまい、彼らから命を付け狙われることになった。そんなケインを助
けたのが、地球の外人部隊の隊長であった。

2,概略
「さすらいのスターウルフ」
 カラル人に雇われた外人部隊は、宿敵ヴォホル人の誇る恐るべき秘密兵器の
秘密を探り出す。しかしその兵器の正体とは!
「さいはてのスターウルフ」
 消息を断った科学者の捜索を依頼された外人部隊は、勇躍禁断の宇宙に乗り
込むが、そこは妖獣潜む密林や亡霊さまよう廃虚が待ち受けていた。
「望郷のスターウルフ」
 銀河系最大の秘宝<歌う太陽>が強奪され、それに200万クレジットの賞金がかけ
られた。ケインはそれを追って生まれ故郷のヴァルナに赴く。

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆
 翻訳は例によって、野田大元帥閣下ですが、相変わらずこの手の作品の翻訳
は好調ですねぇ。と言っても、もう22年も前になりますねぇ^^;
 <スターウルフ・シリーズ>は、悩める(たいして悩まないけど^^;)主人公
をスペオペに持ち込んだ最初(?)の傑作シリーズ作品です。
 
4,このシリーズを現す一言
>「どのくらい悲しいか教えてやろう、ケイン。スターウルフが一人殺されたと
>なると、かたぎの星はひとつのこらず、お祝いに一日のお休みをとるくらいだ」
>ケインはにやりと笑った「少なくとも、これでお互いが理解しあえたわけだ」

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.27
 編集部のお薦め作品その17。(102P)
『ゼロ・ストーン』アンドレ・ノートン
1,粗筋
 名うての宝石商人の父から見せられた奇妙な指輪《ゼロ・ストーン》−宇宙
を漂流していた宇宙人の死体がはめいてた、そのくすんだ色の石がついた指輪
に導かれて、主人公の冒険の旅が始まる。
 まず父が殺され、さらには宝石商人の修行をさせてもらっていた師匠までも、
敵の手にかかって殺されてしまう。
 牢屋に入れられたマードックは、かろうじて<フリー・トレーダー>の助け
で脱出するが、立ち寄ったある星でペットの猫が奇妙な石を食べ、宇宙船の中
で小さなトカゲのような生物を産み落とす。この生物<イート>はテレパシー
能力を持ち、ある程度人間を操ることができたのだった。

2,作者のノートン女史
 男勝りの活劇SFで人気がありました。アンドレって男の名前ですよね。
あと女性で活劇SFを書くというと、リイ・ブラケット女史もいましたねぇ。
 チェリイやヴィンジ、マッキンタイア女史なども影響を受けた作家として
アンドレ・ノートンの名を上げていますね。

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆1/2
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価)
他のノートン女史の作品としては
「大宇宙の墓場」<太陽の女王号>シリーズ
「恐怖の疫病宇宙船」同上
「銀河の果ての惑星」落ちぶれた<星間パトロール>が不時着した惑星は?
「スター・ゲイト」SF・ヒロイック・ファンタジー
「ビースト・マスター」痛快異世界冒険SF
 以上早川
「猫と狐と洗い熊」精神感応力を持つ動物たちとの冒険談(創元社)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.28
 編集部のお薦め作品その18。(103P)
《火星の戦士》マイクル・ムアコック

1,設定
 若き物理学者マイクル・ケインが完成した物質転送機。実はそれは異世界へ
の扉だった。(蝿と合体しなかっただけでもよしとしなくては^^;)
 太古の火星に降り立ったケインは、外套と短剣、ピストルのほかは何も身に
着けていない金髪の美女と出会い一目で恋に落ちてしまう。(言葉の問題はど
うしたかって?テレパシー翻訳器があった!)その王女シザーラが、敵の巨人
族に連れ去られてしまった。王女を取り戻すべく、ケインの旅がいま始まる!

2,粗筋(全3巻)
 「野獣の都」:巨人族を支配する妖女の野望を砕く。
 表紙と挿絵は松本零士さんです。

 「蜘蛛の王」:運命のいたずらで、結婚前夜に地球に戻ってきたケインは、
火星での恋と冒険が忘れられず、再び火星に。巨人族の内乱に巻き込まれ、人
跡未踏の蜘蛛人間の巣窟へとさまよいゆく・・・
 表紙と挿絵はあすなろひろしさん。

 「鳥人の森」:ケインは、火星に広がる恐ろしい死の伝染病を食い止めるた
めに、探索行を開始する。高度の科学文明を持ちながら、太古の昔に滅び去っ
た種族"ヤクシャ"の秘密を見つけるのだ!
 表紙と挿絵は石原春彦さん(シリーズもので、3冊とも違う画家というのは
珍しいのでは!)


2,思い出(16,7年前^^;)
 大学生の頃、ロックのバンドをやってた先輩が、突然「ムアコックの『火星
の戦士』、持ってたら貸してくれないか」と言ってきたのでびっくりした記憶
があります。(SFなんか読みそうにない先輩だったので^^;)どうも鏡明さん
あたりが、ロックの雑誌かなんかで、ロックファンなら『火星の戦士』は必読
だと紹介したらしい。)たぶんどこかのロックグループが関連アルバムを出し
ているのでしょう。(i.tさんかKEITH-kunあたりなら知ってるなぁ、きっと)

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆1/2
 あの暗〜い:-)<エルリック・シリーズ>を書いた作者が送る、正統派バロウ
ズ調のヒロイック・ファンタジーでありますぞ。(ちらちらとあっちの傾向も
見えかくれしてしてますが:-)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.29
 編集部のお薦め作品その19。(104,105P)
《真世界・シリーズ》ロジャー・ゼラズニイ

1,設定
 <アンバー>それは唯一の真の世界。地球を含む他の世界は総てその影にす
ぎない。ユニコーンの旗印のもと、この世界を支配する王は<ユベロン>。
 しかしこのオベロンが忽然と姿を消した日から、アンバーの平和は幕を閉じ、
混沌の日々が始まった。空位となった王座を巡って9人の王子たちの間に策謀
と駆引きの骨肉の争いが始まった。

2,粗筋(全5巻)
『アンバーの九王子』実権を握った兄の術中にはまり、アンバーを始めとする
総ての記憶を消された王子コーウィンは、"影"の地球へ追放される。九死に一
生をえたコーウィンの記憶が蘇りだした時、真実を求めてアンバーへの旅が始
まる。

『アヴァロンの銃』兄エリックの妖計に陥り、盲目にされ土牢に繋がれたコー
ウィンは、くり抜かれた両目の再生を機に、脱獄に成功する。そしてかつて自
分が追放した逆臣のもとに身を寄せたコーウィンは、邪悪な魔物軍団に敢然と
立ち向かう!

『ユニコーンの徴』ユニコーンの住む美しい森で、王子ケインが惨殺された。
即位を目前にしてコーウィンは、犯人の濡れ衣を着せられてしまう。陰謀と策
略の渦巻く宮廷で、再び兄弟の争いが始まった。そして事件の鍵を握る王子ブ
ランドもナイフで刺され、事態は混迷の度を深めていく!

『オベロンの手』地球、レブマなどの<影の世界>と<真の世界>アンバーを
結ぶ"パターン"。"空でもあり、海でもあるもの"の"上でもあり、下でもある"
楕円の岩棚に鋳込まれているパターンが、なにものかの手によって破壊されて
しまった。それを修理にやってきたコーウィンは、そこで不思議なトランプを
見つけるが・・・

『混沌の宮廷』<アンバー>は血にそまり、いまにも混沌勢力に蹂躙されんと
していた。仮面を捨てて王座に戻った王オベロンは、総ての礎"パターン"を再
建すべく死力を尽くす。一方、コーウィンは、混沌と手を組みアンバーを掌中
にせんとするブランドと熾烈な戦いを繰り広げる!

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆
(『わが名はコンラッド』と『光の王』を☆五つとした場合の相対評価^^;)
 ゼラズニイと言えばなんと言っても1965年にヒューゴー賞を授賞のギリシア
神話をモチーフにした『わが名はコンラッド』と、1967年に授賞したインド神
話をかりた壮大な叙事詩である『光の王』が必読でしょうね。

 また短編にも優れたものが多く、古代火星人の謎の儀式と恋をからませた
「伝道の書に捧げる薔薇」や、異星の巨大生物を生け捕りにする話に恋の駆
引きをアレンジした「その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯」などはい
ま読み返しても尚新鮮な感動がありますね。^^)(どちらも短編集『伝道の書
に捧げる薔薇』に収録)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.30
 編集部のお薦め作品その19。(106P)
《新しい太陽の書・シリーズ》ジーン・ウルフ

構成:
1,『拷問者の影』81年度世界幻想文学大賞、英国SF協会賞授賞
2,『調停者の鉤爪』81年度ネビュラ賞、ローカス賞ベスト・ファンタジイ賞授賞
3,『警士の剣』83年度ローカス賞ベスト・ファンタジイ賞授賞
4,『独裁者の城塞』84年度ジョン・W・キャンベル記念賞授賞

 以上のそうそうたる授賞歴を見てもおわかりになるように、本シリーズは
設定とか構成はSF的であり、筋立てはちょっとファンタジー的かなという
SFとファンタジーの両要素を兼ね備えた傑作シリーズです。この作品は、
ちょっと読みにはファンタジーに思えます。しかし作中人物の目から見ると
魔法に見えるものは、読み進むにつれて実は"科学"であることが次第に分か
ってきます。そうしてウルフ氏の手によって、細部まで綿密に計算され描き
出された世界に没入していきます。
 またウルフ氏が、作中人物の服装に配慮して書かれているのも面白い点で
すね。(主人公の拷問者の黒いマントなんか、漫画にするとピタリと決まり
そうですねぇ。^^)

設定:
 遥かな未来。惑星<ウールス>を統治する強大な<共和国>。その秩序に
逆らうものは誰であれ<拷問者組合>によって刑罰を施される掟になってい
た。組合の徒弟セヴェリアンは、かつてはからずも反逆者ヴォダルスの命を
救い、いまもまたその一味の美女の自殺に手を貸すという大罪を犯してしま
い、組合を追放されてしまう。師から授かった名剣テルミヌス・エストを携
え、偶然手にした謎の宝石<調停者の鉤爪>を懐に旅だったセヴィリアンの
行く手に待つ冒険は!

独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆1/2
(オールタイム・ベスト10作品を☆五つとした場合の相対評価^^;)
  このシリーズは、戦争と若者という題材をSFというテーブルの上で見事
に料理した傑作であるとともに、翻訳された岡部宏之さんのおっしゃるよう
に、古今の神話を集大成した上に構築されたウルフ版の『指輪物語』である
とも言えるでしょうね。(^_^)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.31
 編集部のお薦め作品その21。(107P)
《パーンの竜騎士・シリーズ》アン・マキャフリイ
 この原型となる中編で、女性としては初めてヒューゴー賞授賞!(1968)
その翌年、続編にあたる中編が、また女性としては初めてネビュラ賞授賞!

構成:<パーンの竜騎士>
1,「竜の戦士」2,「竜の探索」3,「白い竜」4,「竜の歌」
5,「竜の歌い手」6,「竜の太鼓」
   <パーンの竜騎士/外伝>
1,「竜の夜明け」2,「竜の貴婦人」3,「ネリルカ物語」

設定:
 はるかなる惑星パーンで中世的な生活を営む人類が、周期的に彼らの世界に
接近する異星からの銀糸状の胞子生物による侵略に対して、翼を持った竜に乗
って立ち向かう!

独断と偏見のお薦め度 
「竜の騎士」と「竜の探索」は、☆☆☆☆☆
後は☆☆☆1/2〜☆☆☆☆1/2あたりのばらつきがあります。
(オールタイム・ベスト10作品を☆五つとした場合の相対評価^^;)

マキャフリイの作品について
 『サイボーグ・フェミニズム』の中の一文に、ジェシカ・A・サーモンスン
の、「マキャフリイはシュガーキャンディーだ、しょーもないと思いながら、
ついつい食べてしまう」というのがあります。これは確かにマキャフリイのあ
る一面をついた真実だと思いますが、シュガーキャンディーもこれだけおいし
く上手に造ってあれば、なんにも言うことはないのでは?^^)

その他の作品
1,「塔の中の姫君」初期の短編集。標題作は「歌う船」ファンには特にお薦
          めです。☆☆☆☆
2,「クリスタル・シンガー」女性が主人公の冒険物。ちょっとご都合主義が
              きついかなぁ^^;☆☆☆1/2
3,「キラシャンドラ」2の続編。☆☆☆
                          以上ハヤカワSF文庫
4,「歌う船」連作短編集。奇形児として生まれ、特殊教育でその脳だけが宇
       宙船を制御するサイボーグとなった少女の冒険と恋の物語。
       この細やかに綴られたお話は、ほんと、泣かせるものがありま
       すね。☆☆☆☆1/2
5,「恐竜惑星・シリーズ」論評、評価を避けます^^;
                          以上創元社

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.32
 編集部のお薦め作品その22。(108P)
《魔王子・シリーズ》ジャック・ヴァンス

設定:
 ヒーローのカース・ガーセンは、少年の頃に自分の両親や家族を皆殺しにさ
れ、その襲撃を組織した五人の大犯罪者<魔王子>たちに対する復讐の一念に
燃えている。名前しか手がかりのない彼らを尋ね探して、宇宙を歴訪し、つぎ
つぎ復讐をなしとげていきます。一冊で一人片づけて、合計五冊。これ以上の
続編はありえません:ー)
 しかしこの主人公のガーセン君は、巻を重ねるごとにこすっからく、煮ても
焼いても喰えない奴になっていきます。純真に悪事を重ねる<魔王子>がかわ
いそうになる^^;

構成:
1,『復讐の序章』2,『殺戮機械』3,『愛の宮殿』
4,『闇に待つ顔』5,『夢幻の書』

作風:
 ヴァンスの特徴としては、ハードボイルド、服装に関する詳細な描写、文章
の彫琢を重んじるスタイリストであることなど。また大道具小道具、背景とな
る異境の惑星の詳細な描写、異星人の奇妙な習慣や風習に対するこだわりは、
作品を一層魅力溢れるものにしています。(たいていその風習を逆手に取り、
苦難の末ハッピーエンドというパターンが多いかなぁ^^)

独断と偏見のお薦め度☆☆☆☆1/2
(オールタイム・ベスト10作品を☆五つとした場合の相対評価^^;)
 ともかく読んでみましょうと言いたいところですが、実はこのシリーズ、例
のTantanさんの早川書房の品切れリストに載っているんですよね。;_;

その他の作品
『冒険の惑星』1〜4巻、創元社、☆☆☆☆1/2
 謎の惑星<チャイ>を舞台に、地球人アダム・リースが繰り広げる異郷世界
 冒険談。
『竜を駆る種族』ハヤカワ文庫SF、☆☆☆☆☆
 ヒュゴー賞授賞作。少し古いけどあまりの面白さに目を剥きます。^^)
『大いなる惑星』ハヤカワ文庫SF、☆☆☆☆
 金属の埋蔵が少ないために、重力は地球と同じながらはるかに巨大な惑星を
 舞台にした冒険談。金属が貨幣の代わりというとカードの「反逆の星」もそ
 うでしたね。^^)
『終末期の赤い地球』久保書店、☆☆☆
 初期の連作短編集、絶版。

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.33
 編集部のお薦め作品その23。(109P)
『闇の左手』アーシュラ・K・ル・グィン
 '70年度、ヒューゴー&ネビュラ両賞ダブルクラウンに輝く大傑作!
1,設定
 はるかな過去に放棄された人類の植民地、惑星ゲセン。その寒冷な気候によ
 って<冬>と呼ばれるこの世界は、苛烈で独立心の強い人々を生んだ。しか
 し、気候よりももっと重要なのは、ここの土着種族の生物学的異様さである。
 ゲセン人は両性具有で、一か月に一度、"ケメル"の間だけ、性的な分極を生
 じ、時には男性、時には女性になる。この特異性がゲセン社会に数々の特徴
 を与えている。
 人間である"わたし"は、全宇宙同盟からやってきた使節で、ゲセン/<冬>
 の異様さは彼の知覚を通じて解釈される。一方"わたし"の異様さは、彼の保
 護者で王国の"王の耳"であるゲセン人によって観察される。"わたし"と"王の
 耳"の物語は、誤解と裏切りの物語であるが、また同時に橋渡しと信頼の物語
 でもある。ラスト近くの、二人による過酷極まりない氷原横断旅行は、読み
 終えたものにある感動を与えずにはおかないであろう。

2,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価)
 星五つでもいいんですがねぇ、単に私がグィン女史が苦手なという理由だけ
 で四つにしました^^;(ファンの方々ごめんなさいね(_o_))

3,何故読み難いか^^;
  うまく言えないのですが、たとえばティプトリイ女史の場合、まずSFを書
くという行為が最初にあると思うのです。それがグィン女史の場合だと、60年
代の近代科学の成果である人類学、心理学、言語学、神話学、生態学etc+近代
批判、科学主義批判、人間主義批判の方法が根底にあって、それを表現する手
段としてSFを書いたような気がするのです。(読みが浅い?^^;)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.34
 編集部のお薦め作品その24。(110P)
『恋人たち』フィリップ・ホセ・ファーマー

1,設定
 3050年、<黙示戦争>によって世界の人口が数百万人に減った後、アメリカ
合衆国はヘイジャック連合と名を変え、複雑な混血した人種の住む国家となっ
た。想像を絶する人口過剰のため、ヤロウの住む人口十万のアパートには、一
室につき二組の世帯が昼夜交代で生活していた。そして、ヤロウ達には性の自
由も無かった。連合の独裁者達は、性を背徳とみなし、愛の行為すら単に子孫
を残すための儀式としてしまっていた。ヤロウはそんな世界にうまく適応でき
ず、妻との間に子供も生まれないため自暴自棄になりかかっていた。
 そんな時、偶然彼は惑星<オザゲン>探検隊の一員に選ばれてしまった。
 節足動物から進化した知的生物が住むその惑星で、彼は人間そっくりの若い
女と出会う。そして彼女と初めて恋と性の喜びを知ったのだが・・・

2,SFにテーマとしてのSEXを初めて取り上げた記念すべき作品。
 特に後半部の、節足動物から進化した女がどうやってヤロウとのSEXで妊娠す
るか、遺伝子交換ができないのにどうやって父親の形質を子どもに伝えるかの
謎ときは秀逸。とても1961年の作品とは思えません。ファーマー氏にはこれ以
外にも「母」(『奇妙な関係』所載、創元文庫)のように異星人の生殖に言及
した好短編がありますね。

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価)
 どこの本だかに、この作品となんだっけ^^;が異星人に対する差別意識の判
定に使えるとか書いてあったなぁ。これを読んで主人公に感情移入できる人は
異星人に対する差別意識がなくて、"おぇっ"となる人はどうだとか^^;

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.35
 編集部のお薦め作品その25。(218,219P)
『ニューロマンサー』ウイリアム・ギブスン

1,導入
 電脳空間に没入<ジャックイン>してデータを盗みだすカウボーイと呼ばれる男達。
雇い主を裏切ったために神経を焼かれ、二度と没入できない体となった主人公
のケイス。千葉シティで不遇を託っていたケイスの前に女ストリートファイターのモリイ
と雇い主が現れる。カウボーイとしての能力を再生するかわりにある仕事をも
ちかけられる。ソフトウエアの故売屋、今はROMに収められた人格プログラム
になったケイスの師、ホログラムを作り出す男を加えた一行は、スペースコロ
ニーへと向かう。

2,サイバーパンク
 私のあちこちから窃盗<パンク>してきた定義では「なにより情報に重きをお
き、人間の肉体よりその中に入っている情報こそが人間の本質を表すとし、さ
らに自分の方からマシンに近づいた人間の物語」といったところです。マシン
に近づくってのは、マシンが最高の能率を発揮できるように、考え方や身体を
マシンに合うように改造するということです^^;

 で、巽孝之氏の『現代SFのレトリック』によりますとギブスンのサイバー
パンク三部作は
『ニューロマンサー』電脳空間に人間が入る物語
『カウント・ゼロ』電脳空間から人間ならざるものが出てくる物語
『モナリザ・オーヴァドライブ』現実空間と電脳空間の水際であり、最終的に
は文字どおり水際にいた人々の撤退の物語
 ということになります。

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆☆
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価)
 まあ私は高く評価しているのですが、この人間/マシンインターフェースの
ありようが生理的に嫌いな人には、受け入れ難い作品であるかも知れません。
 日本の作家の方で言うと、神林氏、大原女史の描く世界がお好きな方には、
お薦めできると思います。(作品の世界そのものが主人公である点でも)
 まあ現代SFの中で落とすことができない作品なのは確かですね。

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.36
 編集部のお薦め作品その26。(220P)
『ソフトウェア』ルーディ・ラッカー

1,粗筋
 人間が作成したプログラムでは人間以上のロボッを創ることはできない。
しかしロボット自身に進化させれば、、、天才ロボット学者のコップは、宇宙
線によってプログラムが突然変異し、少ない部品を巡る生存競争が自然淘汰を
うながす環境を月に設定する。かくしてロボット達は進化を始め、2001年
には人類に叛旗をひるがえし、月を自分達の自治領とした。
 時はそれから二十年後、異常爺婆の住むリゾート天国フロリダに住むコップ
は、自分そっくりの男の訪問を受ける。月に行けば、代償に新たな肉体を提供
するというのだ!コップは、ひょんな縁で知り合った不良少年と共に月へ向か
うが、そこてロボット同士の大抗争に巻き込まれてしまう。 

2,読み所
 「精神とはすなわちソフトウエアである」という認識のもとに、人間とロボ
ットという自我持った存在の姿を面白くも哀しく歌い上げた作品です。
 ラッカーの身上である"野心的なテーマをもっともフマジメなやり方でとりあ
つかう"という点から見ると、今一つおちゃらけが足りない:-)ような気もしま
すが、その分真面目な:-)SFファンにもとっつきやすいかも知れません^^)
  本書の続編としてラッカー氏が、初めてサイバーパンクを意識して書いたの
が『ウェットウェア』ということです。

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆☆
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価)
 ラッカー氏の処女長編を絶賛した時の、あのマッドなイアン・ワトソンの言
葉が"本物のマッド・サイエンチストの書いたSF"というのですから^^;
 バリトン・J・ベイリー、クリス・ボイスのファンには特にお薦め。
 ラッカー氏のSFを読むのに、専門分野の理論をそのままSFにしたような
『ホワイト・ライト』や『セックス・スフィア』から読むより、こちらの二部
作で頭をほぐしてから、そちらに取りかかったほうがよろしいかと^^)
 あと、ラッカー氏の作品として正調マッド・ファンタジー!の『空洞地球』
があります。

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.37
 編集部のお薦め作品その27。(221P)
『ハードワイヤード』上下巻、ウォルター・ジョン・ウィリアムズ

1,粗筋
 軌道コンツェルンとの闘いの後、彼らに屈服した地上の国家。アメリカは、
20もの自治領に別れその間を通行するには、巨額の通行税を払わねばならな
かった。なぜならその方が、軌道コンツェルンが地球を搾取しやすいからだ。
 しかし法のあるところに、また闇のルートが出現するのは必然というもの。
主人公のカウボーイは、かつてはそういう闇のルートの飛行機乗り<ジョック>だっ
たが、州境の防空網があまりに強力になったために、ジェットからパンツァー
(強力な装甲と武装を誇る高速ホバークラフト)に乗り換えた。彼らパンツァ
ーボーイは、脳を装甲車の操縦系に直結し、危険な中西部の州境をすりぬけ、
物資を運ぶことを生業としているタフな野郎どもだった。
 そしてサラ。自分の体を売ることでしか生活できないジャンキーの弟を抱え
たスラムあがりのタフな女。商談がまとまれば娼婦の役であろうと、殺し屋で
あろうと引き受ける荒ごと師だ。
 ともにハードワイヤード、つまり全身にハイテク機器を埋め込み、神経を電
子的に強化した一種のサイボーグである。この二人が出合、そして軌道コンツ
ェルンから付け狙われる事態に巻き込まれた時、彼らの怒りが爆発した!
 
2,読み所
 序文に『地獄のハイウェイ』を演じさせてくれたロジャー・ゼラズニイに、
とあるように、これはサイバーパンクの味付けをほどこされた『地獄のハイウ
ェイ』に他なりません。しかしなんとよくできた二番煎じであることでしょう!

 本質とはまったく関係ないんですが、この主人公の乗るパアンツァーはマセ
ラッティなんですよね。うれしくなってしまいます。そういえば、シド・ミー
ドのデザインの『ブレードランナー』に出てくるスピナーはアルファ・ロメオ
ですよね。(クルマに関心の無い方はごめんなさい^^;)

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆1/2
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価)
 ハードボイルド・SFとしてだけではなく、普通の小説という観点から見て
も一級の娯楽作品に仕上がっているとおもいます。
 あと彼の作品としては、
『ナイト・ムーブス』
『進化の使者』上下巻
『必殺の冥路』     いずれもハヤカワ文庫SF があります。

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.38
 編集部のお薦め作品その28。(222,223P)
『スキズマトリックス』ブルース・スターリング

1,基本設定
 人類が月の回りの軌道上に様々なスペース・コロニーをつくって移り住むよ
 うになった時代、コロニーの人々は地球に対する関心を失い、また地球でも
 コロニー建設熱がさめて、両者の関係はしだいに冷えてきます。そしてつい
 にコロニーは地球との関係を絶ち、完全な自立を果たします。これが<連鎖
 国家時代>です。しかしこの繁栄も一世紀で衰退にはいり、国家に代わって、
 異なるテクノロジー体系を追求する二大勢力が覇権を競うようになります。
 宇宙での生活への適応と不老長寿をサイボーグ技術によって果たそうとする
 <機械主義者メカニスト>と、遺伝子工学をはじめとする生物学によって宇宙に適
 応する超人をつくろうとする<工作者シエイバー>です。
 この二大勢力の争いに、異星人の出現という新たな要素を加えて展開される
 のが、この<機械主義者/工作者>シリーズです。

 題名のスキズマトリックスとは、スキズム(分裂)とマトリックス(基質)
 の合成語で、宇宙におけるダイナミックな人類の進化・変容を示しています。

2,粗筋
 <工作者>出身のリンジーは、精神コントロールの技術を身につけ、若者達
 のリーダーとして革命を企てるが失敗、亡命者となった彼は、別のコロニー
 で外交術を発揮し、闇科学者集団と性を社会経済にまで高めた<芸者銀行>
 に取り入る。その後、宇宙海賊に身を投じた彼は、異星人と遭遇し、そこか
 ら得た知識と財産によって確固たる地位を築く。しかしその日々も長くは続
 かず、リンジーが見ることになるのは、再び様々な独自文化を持った多彩な
 集団としてさらに発展していこうとする人類の姿だった!

3,評価
 A・C・クラーク氏の後を精神的に継いで行くのは、グレッグ・ベア氏だと
 私は常々思っているのですが、この本を再読しましてスターリング氏にもそ
 の精神を確認しました^^)
  そのベア氏の『久遠』と、この『スキズマトリックス』との共通点といえば
  根底にある<ゼン>の思想でしょうか。(いささかキリスト教風に味付けさ
  れた禅ではありますが^^;)最後に悟りをひらくというか、啓示に導かれる様
  な終わり方をするところが・・・
  この二冊とシェフィールド氏の『プロテウスの啓示』の三冊は、人間の本質
  は情報であり肉体はその入れ物に過ぎない、しかしその入れ物が他の入れ物
  に変わればその中の情報も変質せずにはいられない、とする点で共通項があ
  る傑作だと思います\(^o^)/

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆1/2
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価)
 好きなスターリング氏なので、ちょっと力が入りすぎました^^;
  サイバーパンクを語る上でも、読みのがしにできない傑作です。まだの方は
  ぜひどうぞ!!(あの人とあの人も読んでるそうです。おーい、myoさ〜ん^^)

  なお同じ設定を背景とした短編集『蝉の女王』(ハヤカワ文庫SF)もあります。

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.39
 編集部のお薦め作品その29。(224P)
『ブラッド・ミュージック』グレッグ・ベア

1,粗筋
  遺伝子工学の天才ヴァージル・ウラムが、自分の白血球から作りだした生
 体素子"バイオロジックス"。コンピュータ業界が切望する「知性ある細胞」
 の完成である。しかし哺乳類の遺伝子操作は禁止されているため、実験は中
 止、ヴァージルも解雇される。みずから創造した「知性ある細胞」を捨てき
 れない彼は、それを自分の体内に注射して持ち出してしまう。
  やがてヴァージルの体に異変が生じ始める。「知性ある細胞」が増殖をは
 じめ、宿主の体を自分達の都合のいいように改造しはじめたのだった。
  "ヌーサイト"と名付けられたこの細胞との意志の疎通を期に、ますます変
 容は進行を続け、ヴァージルは人間の形を失っていく。そして彼と接触した
 生物、いやすべての存在物が遺伝子レベルで変化していく。そしてアメリカ
 合衆国さえも。そしてその変容の果てで人類の見たものは・・・

2,評価
 A・C・クラーク氏の後を精神的に継いで行くと私が思っているグレッグ・
 ベア氏が描くところの新時代版『幼年期の終わり』。
 しかし、『ブラッド・ミュージック』における人類の進化は、『幼年期の終
 わり』に書かれている高次元の神のような存在と同化するようなものではな
  く、人類が作りだした"ヌーサイト"側の都合だけで変容させられてしまうの
  です。
 ここらあたりの無常感と、ぐちゃぐちゃした変容感覚がサイバーパンクぽい
 感じを受ける要因になっていますね。

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆☆
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価)
 ベア氏は、こういったサイバーパンクぽい作品も書きますし、『無限コンチ
 ェルト』のような純ファンタジーの傑作もものにしますし、『永劫』『久遠』
 といったハードSFも書けるという才人であります。
 しかしベア氏とカード氏がともに1951年生まれの同い年とは^^;
  (作風からすると、どう見てもカード氏の方が:-)お説教が好きだからかな:-)
  
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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.40
 編集部のお薦め作品その30。(225P)
『地球の長い午後』ブライアン・W・オールディス
 1961年度ヒューゴー賞短編部門に輝く連作短編集!

1,設定
 長い年月の間に地球の自転は止まり、いまでは片面は永遠に昼が、もう片面
 では永遠に夜が続いていた。そうして地球と月は、常に同じ面を向けた一対
 の惑星となっていた。
 強烈な放射線が降り注ぐ昼の大陸は一本の巨大なベンガルボダイジュに征服
 されていた。しかし、様々な食肉食虫植物も繁茂しており、移動能力をもつ
 種類も多い。頑丈な箱様の口で人間を飲み込むヒカゲノワナ、樹皮に化けて
 獲物を待ちかまえるオニクライ、透明なレンズを利用して炎をつくり動物を
 寄せ付けないヒツボなどである。
 これに対する生き残った動物は昆虫が4種と、いまでは手のひらに乗るほど
 小さくなり全身緑色になった人間である。しかしその人間たちは、地域毎に
 小さな群れをつくって細々と生活しているのみであった。
 そしてその地球と月の間には、飛翔能力をもつ気球状の植物蜘蛛ツナワタリ
 が、糸をかけ自在に往復しているのだ。(つまり月にも植物が繁茂し、呼吸
 可能な大気があるということ)

2,粗筋
 グレンは、小さな部落に生まれた男の子(彼はタブー、女に子供をもたらす
 存在なのだ)だったが、生来の反抗心が災いして部落を追い出されてしまう。
 無人地帯をあてなく歩くグレンの頭にアミガサダケが取り付く。そして彼を
 慕ってついてきた少女とともに、アミガサダケの知識欲を満たすべく彼らを
 受け入れてくれる人間種族を探すために放浪の旅が始まる。

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆☆
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価)
 SF作家のイマジネーションの限界に挑戦したこの作品は、伊藤典夫氏の訳
語とともに、多くの作家に影響を与えています。『アド・バード』の椎名誠さ
んをはじめ、最近では『天空を求める者』の草上仁さんもそうですね。
 基本的には少年の成長物語なのですが、本当の主役は、彼を取り巻く異様な
世界そのものである点も似てますね。
 SFファンなら読むっきゃない一冊であることは間違いないでしょう\(^o^)/

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.41
 編集部のお薦め作品その31。(226P)
『夜の翼』ロバート・シルヴァーバーグ
 三部構成の第一部が、1969年度ヒューゴー賞授賞!
 長編として1972年度星雲賞授賞!

1,粗筋
 遥か数万年先の未来。気象改変計画の失敗で文明の崩壊を招いた地球は、異
 星人の助力によってかろうじて回復し、いまでは幾多のギルドからなる社会
 制度によって秩序を取り戻していた。しかし、地球の最盛期に危害を加えた
 異星人からの報復を恐れて、<監視人>や<防衛者>のギルドは一千年にわ
 たって宇宙からの侵略に備えてきた。
 宇宙に意識を解放して侵略者を見張る老<監視人>は、<翔人>の娘と<変
 型人間>とともに古都ロウムを訪れ、そこで宇宙からの侵略に遭遇する。
 そうして二人とはぐれた彼は、身をやつしたロウム皇帝とともにペリの都に
 向かい、<記憶者>ギルドに加入を許される。トーミスという名を与えられ
 た彼は、地球の過去を学ぶ毎日を送る。
 だがある<記憶者>夫婦とロウム皇帝とのスキャンダルに巻き込まれた彼は
 再びギルドから追放され、<巡礼者>となって放浪の末に<翔人>の娘と再
 会を果たす。

  この時期のシルヴァーバーグ氏の作品の多くがそうであるように、この作品
  も再生と変容、疎外とそこからの救済を扱った小説ですね。

2,評価
 60年代後半まで、いわゆるパルプマガジン的作風で、SF界でもたいした
評価を受けていなかったシルヴァーバーグ氏は、『いばらの旅路』という長編
あたりからにわかに内省的思索的な小説を書くようになります。
 この『夜の翼』や『時の仮面』などは、その過渡期的な長編ですが、シルヴ
ァーバーグ氏の物語つくりのうまさと思索的な面がほどよくミックスされた傑
作だと思います。
 確かに『いまひとたびの生』『ガラスの塔』などもよくできた作品には違い
ないのですが、やや説教臭いところが鼻につき、私としてはそれほど評価して
いません。(ご異論もございましょうが^^;また『内死』(サンリオ)は暗いながらも
別格のできばえです)
 
3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆1/2
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価)
  東野司さんの作風に影響を与え、アシさんにも深い印象を残したというこの
本を皆さんも読んでみませんか\(^o^)/

 しかしシルヴァーバーグ氏は、近年『ヴァレンタイン卿』シリーズをはじめ
とするサイエンス・ファンタジー系の長編が多くなったと聞きます。物語作り
の原点に戻るのはけっこうなんですが、やはりそれだけじゃねぇ^^;

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.43
 編集部のお薦め作品その33。(228P)
『愛はさだめ、さだめは死』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

1,内容
 '73年ヒューゴー賞授賞の、異星の巨大な節足動物を思わせる生物のライフ・
 サイクルが一人称で語られた『愛はさだめ、さだめは死』
 '73年ネビュラ賞授賞の、遺伝子操作によって作り出された完璧な少女(ただ
 し自分の心というものががない)のオペレーターとして選ばれた、外見も心も
 ブスな女の(それゆえ自己主張というものがなくて、適任な)いつわりの恋と
 破滅を描いた『接続された女』
 エリスンの『危険なビジョンふたたび』のトリを飾った『楽園の乳』
 どれを取っても、総て傑作の名に値する短編集です\(^o^)/

2,評価
 ティプトリーの短編は、そこに示された"人間の本質とは?"、"男とは女とは"
 "人間の尊厳とは?"、"生命とは?"などの根元的な問いを、我々がほとんど
 理解できそうな気分で読むことのできる希な小説です。\(^o^)/ ‾‾‾‾‾‾‾‾
  これこそ現代SFがめったに提供してくれない、ぞくぞくするほどの楽しい
  スリルではないでしょうか。
  しかし、唯一の欠点は、彼女は一人でだれも到達していない高みに登って、
  逝ってしまったために、下を視たら誰も登ってきてなかったという点ではな
  いでしょうか(;_;)

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆!!!!!
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価^^;)
 ティプトリー・ファンのあなた!当然の評価ですよね\(^o^)/
 ティプトリーを読まれたことのないあなた!
 幸せですね、まだ読んでない短編集が四つもあるんですもの\(^o^)/

 その他の短編集『たったひとつの冴えたやりかた』『老いたる霊長類の星へ
の賛歌』『故郷から10000光年』何れもハヤカワ文庫SF

4,おまけ
 ティプトリー氏の『故郷から10000光年』に関するメッセージは、ここ
の 3917番,3924番,3925番,3926番,3927番,3953番,3960番,3982番,4014番 にあ
ります。

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.44
 編集部のお薦め作品その34。(230P)
『人間以上』シオドア・スタージョン

1,粗筋
 白痴がいた。彼の瞳を見つめると、人は振りあげた棒を降ろし、食物や硬貨
 を差し出すのだ。外界になんの反応も示さず、白痴はこうして動物のように
 生きてきた。そして、狂信的な父親によって無垢な魂のまま育った少女がい
 た。少女が春の目覚めの中で、仲間を渇望する声にならない叫びを上げた時
 白痴の中で何かが目覚めた。二人は初めて他人と世界を共有したのだ!
 しかし憤怒に狂った父親の手で少女は殺され、白痴もぼろぼろになるまで鞭
 打たれ、半死半生になったところを農夫の夫婦に救われる。
 
 今では、孤独ということの意味を知り、自らをローンと名付けた白痴は、森
 の中の小屋で一人で暮らすようになった。やがてローンのもとに奇妙な子供
 たちが集まってくる。手を触れないで物を動かせる少女。自由に空間を移動
 できる双子。6才で一人前の大人に匹敵する記憶力を持つ少年。そして少し
 も成長しない代わりにコンピュータのように知識を蓄えていく赤ん坊。
 彼らは一つの集団人<ホモ・ゲシュタルト>(一人一人は自由な人間だが、集まるとよ
 り高次な存在となる)となる運命だったのだ。しかし彼らの前途には、様々
 な障害がまちうけ、さらにはいま一つ重要なパートが欠けていたのだった。

2,評価
 超能力それ自体は、現実の人間経験と何のつながりもない。例えばおびただ
しく生産され続けている伝奇小説もどき(その評価は個々作品によって違うが)
がそうであるように。しかしそれが、人間の限界を反映する手段である場合は
別である。たとえばこの作品のように、社会的疎外者や奇形の者たちの運命を
見せ、彼らに感情移入をさせるために超能力を題材にした場合は、真実味のあ
るリリカルな物語になりうると思われる。

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価^^;)
 今となっては、その題材の扱い方に若干の古さは否めないものの、その甘く
ウェットな感性と優しさは、ディレーニイをはじめとする後代の作家に大きな
影響を与えたといわれています。<キャビアの味>と称される一風変わった幻
想的な世界に、一度浸ってみませんか^^)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.45
 編集部のお薦め作品その35。(231P)
『ストーカー』アルカジイ&ボリス・ストルガツキー

1,粗筋
 人類の知らぬまに地球を来訪し去って行った、超文明を持つ異星人の痕跡、
 これが《ゾーン》だった。地球に残された五箇所のゾーンの謎を探るべく、
 厳重な監視下で国際地球文化研究会が設立された。しかし第一線の科学者達
 もゾーンの謎を解くことはできなかった。そこには時間と空間のゆがみがも
 たらす死の罠とともに、人知を越えた物質や物体が残され、その多くが人間
 に死をもたせすものだった。しかしそのなかのあるものは、画期的なテクノ
 ロジーと知識をもたらすために、警戒厳重なゾーンに忍び込んで物品を盗み
 出す命知らずの男たちがいた。
 そして、ストーカーと呼ばれる彼らの間では、奇妙な伝説が語り継がれてい
 た。それはゾーンの奥深くには"黄金の玉"と呼ばれる遺留品があり、それを
 手にした者はどのような望みでも叶えられるというのだ。

2,映画化
 『ソラリス』のタルコフスキー監督が、後半1/4をもとに映画化しているそう
なのですが、私は見ていません。近所のビデオ屋にはなかったのさ(;_;)

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆1/2
(オールタイム・ベスト10の作品を☆5とした際の相対評価^^;)
 この作品は、ストルガツキー氏の作品の中では娯楽性が比較的高いため、少
しは読みやすい印象があります。(エフレーモフ氏よりは^^;)でも執拗なばか
りに論理的なのは相変わらずですが^^;
 レム氏のファンには、特にお薦めしておきます\(^o^)/

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.46
 編集部のお薦め作品その36。(232,233P)
『猫のゆりかご』カート・ヴォネガット・ジュニア

1,設定
 たいした長さの小説でもないのに、なんと127章に分かれています(各章
 の平均の長さ二ページ^^;)その細かいSF的設定のナンセンスかつ魅力的な
 断片積み重ねで、この本は構成されているのです。

2,粗筋
  カリブ海にうかぶ小島サン・ロレンゾ共和国を訪れることになった作家ジ
 ョン(ジョーナ=ヨナ)を狂言回し役として物語は始まります。
  そこへ向かう機上で「わたし」は初めてボコノンの教えに接します。ボコ
 ノン教は、アメリカから流れ着いた黒人によって冗談のように創始された宗
 教で、かの小島は極めて資源に乏しく、政治や経済をいくら改革しても、島
 民の暮らし向きは一向に改善しません、そこでボコノン教の祖師は、真実は
 民衆の敵、真実ほど見るに耐えられないものはないという結論に達し、見か
 けのよい嘘を人々に与えることを天職となすようになります。

  またこの島には、アイスナインと呼ばれる新しい分子構造(融点40゜C)を
 もった氷の開発者の息子と、絶世の混血美女"モナ"が住んでいるのです。
 (この美女は島の独裁者"パパ"の養女なのですが)

  さて島に到着した「わたし」は大歓迎を受けるのですが、"パパ"は全身を
 癌に侵されていて歓迎式も中途で終わってしまいます。やがて癌の苦しみに
 耐えかねた"パパ"は、アイスナインを飲んで、カチンコチンに凍った死体と
 なってしまい、モナとの結婚を餌に、私は次期大統領の椅子に座る羽目に。

  そして運命の日、事故がもとで城壁が壊れ、安置されていた"パパ"の遺体
 が海に落下してしまい、海はたちまち真っ白なアイスナインの氷に変貌し、
 嵐が七日七晩吹き荒れたのです。そうして生き残った「わたし」は、霜のつ
 いた足を引きずりながら歩いている老人に出会います。その黒人の老人こそ
 あの・・・
 
3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆☆
 なんといっても、適宜挿入されるへんてこでおかしいボコノン教の教義がこ
の小説の魅力ですね。およそナンセンスなこの教義が、小説を読み進むととも
に一面の真理をついて光ってくる様は、見事ですヽ(^。^)丿
 かつて「カルト作家」と呼ばれたヴォネガット氏ならではの、ナンセンスS
Fをお楽しみ下さい(氏本人は、SF作家と呼ばれるのはお嫌のようですが^^;)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.47
 編集部のお薦め作品その37。(234P)
『火星人ゴー・ホーム』フレドリック・ブラウン

1,粗筋:
  SF作家ルーク・デヴロウは、極度のスランプと妻への想いに陥りながら
 新作のプロットをひねりだそうと苦吟していた。「そうだ。もしここに火
 星人が来たら・・・」 するとドアにノックの音が、、、

  それは身長1m弱の緑色をした小人だった。馴れ馴れしくて厚かましい
 火星人の初登場である^^;その頃火星人たちは地球上のあらゆる場所に現れ
 ていた。その総数およそ十億人(匹^^;)ルークのもとに現れた火星人は、
 火星から"クイム"と称するテレポーテーションでやってきたと告げる。

  火星人は地球上を大混乱におとしいれた。実体をもたない彼らを攻撃す
 るのは無駄だし、なまじ、目には見えるため車の運転には支障を来すし、
 テレビや映画会社は新しい番組の製作がまったく不可能になってしまった
 のだ。さらに火星人は"ヴァー"という透視能力で軍事機密を次々暴露し、
 共産圏ではプロハガンダが不可能になってしまっていた。

  かくしてSF作家は完全に失業してしまった^^;しかし昔書いた西部劇が
 再販されたことがきっかけで、ルークは再出発しようと決意する。そして
 タイプライターを叩き始めたその時、突然小柄な火星人がタイプライター
 にまたがり「ハイヨー、シルヴアー!」とやったために、ついにルークは
 ぷっつんしてしまう。そう、それ以後ルークの目には火星人が見えなくなっ
 てしまったのだ。
  長編を書き上げたルークは、火星人について思考を巡らせた。そうだ、
 彼らは、俺が「もしここに火星人が来たら・・・」と考えたために生まれ
 たのではないか。なにもかも自分の想像の産物なのではないかと・・・

2,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆1/2
(オールタイムベストテンの作品を☆5とした場合の相対評価^_^)
 地球が非暴力的な侵略によって滅茶苦茶にされる様を皮肉っぽく描いた傑作。
誰の秘密でも喋ってしまういけ好かない火星人のキャラクターは秀逸ですね。
火星人のために出生率の大幅低下ってのも笑わせます(だってねえ^^;)
 結末も人を喰ってますね。当然、ルークの想像の産物ではないかと思わせる
展開ですからね。
 また、以前にsf/othersの方に書いたのですが、映画化されてビデオが出て
います(ただし、それほどの出来ではあーりません^^;)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.48
 編集部のお薦め作品その38。(235P)
 今回はワイドスクリーン・バロックの作品を2冊。その定義としては
「空間設定は狭くても太陽系。アクセサリーには、時間旅行が望ましい。
 加うるに自我の喪失といった複雑なプロット。そして"世界を身代金に"
 というスケール。可能と不可能の透視画法がドラマチックに立体感を
 持ち描き出されなければいけない。そして登場人物は、名前が短く、
 寿命もまた短いことが望ましい!!」
というオールディスの定義があります\(^o^)/

『禅<ゼン・ガン>銃』バリトン・J・ベイリー

1,背景:
  かつては栄耀栄華を誇った銀河帝国が落ちぶれて幾年。激減した純人
 類の補助として宇宙海軍でさえ大量の動物人類キメラを乗組員にしてい
 た。(ここらあたりはコードウェイナー・スミス風^^なんせ人手不足で
 艦長が12歳の女の子だったり、砲術士官が8歳の男の子だったりする)
  ある日、辺境の一星域に恐るべき窮極兵器が出現、人類は存亡の危機
 にあるとの<託宣>を受けた宇宙艦隊提督は、艦隊を率いて調査に赴く
 が・・・・
  
2,導入:
  人猿キメラのパウトが、ふと古代の武器展示博物館で手にした古色蒼
 然たる銃。それが禅銃だった。パウトはそれがいかなるものか分からぬ
 まま、対人殺傷武器として使用する。
  おりしもそこの館長が超戦士<小姓>を自分のコレクションに加えよ
 うと策謀を巡らす現場に行き会わせたパウトは、恨み重なる館長を射殺
 し結果として<小姓>に恩を売り、自分の警護で借りを返すように頼み
 込む。こうして禅銃に導かれた歴史の1ページが、いま開かれた\(^o^)/

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆1/2
(オールタイムベストテンの作品を☆5とした場合の相対評価^_^)
 なんたってベイリーヽ(^。^)丿まだの人はぜひどうぞ!

 作中で語られる<後退理論>もまた面白いですね。時空を構成する後退線
を減衰させることによって、光速を早める。したがってフィールド内では、
光速以下でも、結果として超光速が得られる。しかも、フィールドを結合さ
せることによってその効果は倍増するヽ(^。^)丿


『キャッチ・ワールド』クリス・ボイス

1,設定:
  西暦2015年に発見された木星軌道上を周回していた結晶生物の大群
 は、その刹那地球に対して恐るべき攻撃を開始した。かろうじて全滅を免
 れた人類は、結晶生物からの信号が彼らの故郷と思われるアルタイルに到
 着するまでの時間以内に反撃して元を断たなければならないのだ。
  地球の破滅まであと<5840日>^^;

2,導入:
  瀬戸内海の小島である屋島。共同統治当局によりここに法華宗が再興さ
 れていた。そこの僧院の教団長に当局が選んだのが佐々木である。彼はす
 ぐれた人物であり指導者であった。彼が当局には秘密裏に、影の摂政とし
 て活動を始めたことは知られる由もなかった。そうして彼の暗然たる活動
 の結果、航宙艦《憂国》に一人の日本人が送り込まれることになるのであ
 る。
  宇宙飛行士となりアルタイルの結晶生物を滅亡させるべく条件づけられ
 た田村は、敵せん滅のため航宙艦に乗るためには手段を選ばない男だった。
  強迫観念を持つ彼と、互いに相いれない性格同士のものが集まった《憂
 国》の秘密とは何か。そして艦搭載のAIの秘めたる目的とは・・・

3,独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆1/2
(オールタイムベストテンの作品を☆5とした場合の相対評価^_^)
 これぞワイドスクリーン・バロックという傑作!!そのめくるめくアイデアの
洪水は軽いめまい効果さえ引き起こします。この2作がどちらもイギリスの作家
によって書かれたというのは、かの国の特性なのであれましょうか。(パンクの
発祥地でもあるし^^;)
 唯一の欠点は、ちと初心者向けとは言えないところかなヽ(^。^;)丿
(今回は2冊なので長くてごめんなさい^^;)

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.49
 編集部のお薦め作品その39。(236P)
 
 同じ作者の『イースターワインに到着』(サンリオ文庫)の後書きに曰く・・・
 最高にかっこいいSF作家はだれか:ディレーニイかエリスンあるいはコード
 ウェイナースミス、あるいはウイリアム・ギブスンかも知れない。
 最高に偉いSF作家は:もちろんウェルズがいるし、レムかバラードという線
 もある。
 最高に知的なSF作家は:たぶんティプトリーだろう。
 最高の"普通"のSF作家ならクラークに違いない。
 しかして、史上最高のSF作家は、ひとりしかいない。それはレィフェル・ア
 ロイシャス・ラファティ・・・ヽ(^。^)丿

『九百人のお祖母さん』R・A・ラファティ
  特殊様相調査員セランは、いつも「そもそもの始まりはどうだったのか?」と
考えていた。ある日小惑星に上陸した彼は、そこの種族が不死のおかげで、未だ
種族全体が生存していたからだ。当然種族の起源を知る最初の先祖も生き続けて
いることになるヽ(^。^)丿(標題作)
 もしも、犬の目にはどの犬も人間に見え、どの人間も犬に見えるとしたら^^;
(他人の目)他、二十一篇を収録。

 世の中には二種類の小説がある。ふつうの小説とラファティの小説であるヽ(^。^;)丿
と称されるように、ラファティ氏の長編は読みづらい一面もあります。しかし、
その短編は最高です\(^o^)/
 もし短編集を読んでもその面白さがわからないなら、その日からSFファンを
名乗るのをやめたほうがいいとまで言われている傑作短編集をどうぞヽ(^。^)丿

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.50
 編集部のお薦め作品その40。(237P)

『タイム・パトロール』ポール・アンダースン
 主人公のタイム・パトロール員エヴァラードは、1954年から採用された隊員
である。彼の最初の仕事は、1894年のイギリスで、存在するはずのないアイソ
トープの放射能を浴びて死んだ男の調査だった。いったい誰がその30世紀の危
険な燃料を持ち込んだのか?
 この他三つの中編からなる連作を収録。

『地球人のお荷物』ポール・アンダースン&ゴードン・R・ディクスン
 星間調査部隊員のジョーンズは、500光年離れたトーカという惑星に不時着
した。住んでいるのは、ホーカというテディ・ベアをそのまま大きくしたよう
な1m足らずの人種(ただし力は強い)性質は従順、無垢な想像力をそなえ、
熱しやすく、事実と虚構を区別できない熊さんたちなのだヽ(^。^)丿

 トカゲのインディアン相手にホーカのカウボーイが華々しく戦ったり、宇宙
パトロールになったつもりで海賊を相手にしたり大活躍。極めつけは、ホーム
ズになりきって、ジョーンズに「いや、なに。初歩的なことだよ、ワトスンく
ん!」(バスカヴィル家の犬)

独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆☆
 どちらもアンダースン氏の博識が生かされた楽しい作品です。
特にホーカー・シリーズは、ユーモアSFというと必ず挙げられる傑作中の傑
作であるのは、疑問のないところでしょう\(^o^)/

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.50
 編集部のお薦め作品その40(238,239P)

『タイムスケープ』グレゴリイ・ベンフォード
 カリフォルニア大学の理論物理学者で、一時期タキオンの研究もしていたこ
とのある著者の、1980年度ネビュラ賞受賞ハードSF大作ヽ(^。^)丿

粗筋:
  1998年、地球は生態学的危機に瀕していた。殺虫剤に由来する化学物質が
 海中で変化し自己増殖能を持つようになり、大規模赤潮として地上の生物に
 も襲いかかるようになったのだ。もはや未来に希望はなく残された道は、過
 去にこの事実を知らせて過去を改変することだけだった。霧のロンドンで絶
 望的な研究をする中年の物理学者レンフリューは、タキオンビームにこのメ
 ッセージを乗せて過去に通信を送ろうと、必死の努力をするのだった。

  いっぽう1962年、未来はまだ明るいと信じられているカリフォルニアの大
 学で核磁気共鳴の実験に従事する若い物理学講師バーンスタイは、共鳴曲線
 に奇妙な乱れが出ていることに気づく。装置には異常がないとすれば、外部
 からの混信としか考えられない。やがて彼はその雑音がモールス信号で文章
 を構成していることに気がついたのだった・・・・

独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆1/2
 "科学者が生きた人間として書かれていない"ことに常々不満を抱いてきた著
者が、科学と科学者の生活をヴィヴィッドに描き出した傑作ハードSFヽ(^。^)丿
 まあ初期のベンフォード氏の作品ですので、明るいカリフォルニアが舞台の
割には地味目のお話です。
  冒険活劇にカタルシスをお求めの方々にお薦めするにはいささかお門違いの
作品かもしれませんね^^;

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 「SFハンドブック」(早川書房)を読む。NO.51
 編集部のお薦め作品その41(240P)

『プロテウス・オペレーション』ジェイムズ・P・ホーガン

粗筋:
  1974年、第二次世界大戦でナチス・ドイツが圧倒的勝利をおさめたこの世界
 でケネディ大統領は最後の手段として《プロテウス作戦》の実行を決断する。
  選りすぐった部隊を1939年のヨーロッパに送り込み、歴史の流れを変えよう
 というのだ。タイムトラベルに成功した部隊は既に一線を退いていたしていた
 チャーチル議員に協力を要請、さらにアインシュタインをはじめとする一級の
 科学者達と接触し新兵器の開発を急ぐ。しかしナチスの背後には21世紀からタ
 イムトラベルしてきた黒幕がいたのだ。
  《プロテウス部隊》はナチスの時間門を破壊するために、決死の敵地(敵時^^;)
  潜入作戦を決行するが・・・

独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆
 どこをくすぐればSFファンが泣いて喜ぶかちゃんと心得ているホーガン氏は、
まさにその通りにこのお話を進めてくれますヽ(^。^)丿ちと期待どおりに過ぎると
いう点が『星を継ぐもの』に比べるとパワーに欠けますか^^;
 冒険ハードSFというとベンフォード氏の『時の迷宮』というのもありましたが、
ストーリーテリングという点では、ホーガン氏の方がずーっと上。時々科学的にお
かしくなるのはご愛敬といったところ:-)

他の作品としては、同じくタイムマシンを扱った『未来からのホットライン』、
『星を継ぐもの』『ガニメデの優しい巨人』『巨人たつの星』(創元SF文庫)
『内なる宇宙』(東京創元社)の四部作、
『創世記機械』『未来の二つの顔』『造物主の掟』『終局のエニグマ』(以上創元SF文庫)
『断絶への航海』(ハヤカワ文庫SF)

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